「嫌だよ、タカセくん」

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 夕方と夜の境目を跨いだ木馬に、滑稽なほど色鮮やかなライトが点った。 「プール、まだやってないよね」  どこか遠くを眺めていた莉心は、唐突にそう呟いた。この遊園地には、プールとホテルが併設されている。県外から来る客を狙っているんだろうけど、果たして集客力はどのくらいか。  プールは夜遅くまでやっていて、去年も莉心と二人で頻繁に足を運んだ。  昨夏の終わりに泳ぎに行ったときには、海が近いせいでプールの底に蟹が這っていた。莉心は水飛沫を上げて潜り、指先で蟹を捕まえて俺に自慢気に差し出してくれた。  彼女の髪や頬から滴り落ちる滴の一粒一粒が、夕日に照らされてとても綺麗だった。  莉心の指先から慌てて転がり出た蟹は、プールサイドにあるデッキチェアの足に逃げ込んでいく。それを眺めながら、彼女は「私ね、前世は魚だったの、多分」と楽しげに呟いた。 「うん、足引っ張っても溺れなさそう」 「なにそれ。……でも文佳にフラれたら、溺れて消えるかも」  そう言って眉を下げて笑った彼女が可愛くてたまらなくて、思わず腕を掴んで抱き寄せた。  人前で肌を寄せたことを恥ずかしく思ったのか、莉心は冗談ぽく怒って、すぐに俺から離れていった。  子供たちのはしゃぐ声が、あの頃の彼女の笑顔を遠ざけ、俺を現実へと引き戻す。
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