「嫌だよ、タカセくん」

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「嫌だよ、タカセくん」

 彼女は、つまるところ学部内のアイドルだった。  理系学部にしては珍しく、チアリーディング部に所属していた。腰に届きそうなくらいに長い髪は艶やかな栗色で、歩く都度、波のように揺蕩う。くるりと上を向いた睫毛も、目尻の上がった挑戦的な瞳も、柔らかそうな唇も。  とにかく全てが、俺を惹き付けて離さなかった。  でもそれは当然、俺に限ったことではない。彼女を狙っている男はたくさん居たし、実際付き合っている奴もいるとか、あいつが彼女と泊まったらしいとかナントカいう噂は、常に絶えなかった。  クラスの女子は数えるばかりだけど、男は余るくらい居る。だから彼女は俺のことなんて知らない。  知らないんなら知ってもらうしかない。最初は、当たって砕けたって構わない。それがきっかけになるはずだ。  そんな風に、半ばヤケクソになって投げ付けた告白だった。想いを放り出したら、途端に怖くなった。唇を開こうとした彼女を制して、矢継ぎ早に畳み掛けた。 「マジでどうしようもなく好きだから、すぐに振るのはナシ。とりあえず友達になって、それから考えてよ」  彼女は何度かまばたきを繰り返した。そしてちいさな唇をきゅっと上げて、俺を弄ぶかのように笑った。 「……嫌だよ、タカセくん」
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