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2.気づき
新種のウイルスが地球全体を襲う前は、その国は世界有数の経済大国だった。国民全体の知的水準が他国に比べて極めて高く、特に製造業においては、自動車や産業用ロボット、重機、飛行機といった分野で競合できる国はなかった。
謎のウイルスは人から人へ、直接感染によって広まっていった。
人の動きがウイルスを拡散してしまう。
そこでその国の政府は、人々の接触を極力避けさせるために外出禁止令を発布した。当然、工場もオフィスも出社禁止。自宅待機が基本となった。
食料品などの生活必需品を扱う店も閉店させたいところだが、さすがにそれは無理なので特例措置が取られた。
国民の大半が仕事ができないので、収入がなくなった。
食料品や薬品の在庫には余裕があり、食品スーパーやドラッグストアが開いていても、お金がなければ何も買えない。
政府は、国民一人当たり100.000クレジットを支給することにした。
およそ1か月間は生活ができる金額である。
しかし、借金の返済や土地や家屋のレンタル料に、それらのクレジットを使わなくてはいけない人も少なくなかった。
個人経営の会社や店を営む人々は、そのための資金も必要だ。生活費にまで、そのクレジットは回らない。
ウイルスの流行は1か月では収まらなかった。
政府が支給できるクレジットにも限界がある。このままでは、国家予算自体が破綻してしまう。
会社は人体と同じである。
会社員は会社という”生き物”を活かすための臓器であり、
その技能は脳内物質であり、その労力は血液である。
経済社会は人体と同じである。
すべての会社は国家経済という”生き物”を活かすための臓器であり、
国民の消費生活に使われるお金は人体を巡る血液と同様に、社会全体に常に巡っていないと、たちまち機能不全に陥る。
国民は経済を支え巡る血液である。
政府や経済を司る関係者は、発想の大きな転換をした。
ウイルスの脅威によって、国民が動けない。
従って、経済も動かなくなる。
ならば、すべての経済を一時停止させよう。
医療の進展によりウイルスを克服した、と判断した時点で経済を
再稼働させよう。
借金やローンの返済などはすべて一時停止された。
衣食住、医療に必要な最低限以外、お金の動きは止められた。
それに必要なクレジットのみが、必要に応じて国民に給付された。
海外にはこの国以上に経済に、そしてお金に固執するAという国があった。
この国とA国とは政治経済、文化とつながりは大きくて深い。当然、A国からかなりの政治的な圧力が加えられたが、この国は一切応じなかった。
A国は経済を優先するあまり、ウイルスを完全に克服できる前に、人々や経済活動を再開させた。
しばらくして、A国民の半数が死絶えた。当然、国力も半減した。
社会経済を一時停止していた、その国では2年を過ぎるころに
ようやく新種のウイルス対策が確立した。全人類に有効で安全なワクチンが開発され、この国の人々にも免疫ができたからだ。
ほどなく、この国の社会経済は再開された。
国民も3年前とほぼ同じ、日常生活に戻ることができた。
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