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俺、金無いんだよ。だからパス。
彼の口癖だった。
部活の帰りにどこか寄り道しようという話になっても、彼だけは一人でひらりと帰っていった。
お前はそういう奴だからなー、仕方ねえよ。
相変わらずだね。また明日。
みんなそう言って見送ったけど、私はいつももどかしかった。絶対、あの背中を捕まえて、いつか寄り道させてやる。
顧問の呼び出しで、私と彼だけ残った日があった。
今日だ。今日しかチャンスはない。
「ねえ、ちょっとどこか寄ってかない?」
「俺、金無いんだよ」
「奢る」
「…いや、いいって」
「私の自己満だから、ね、付き合って」
「別に、腹減ってないし」
「嘘つき。先生の話中、お腹なってたじゃん」
「……」
「コンビニで、肉まん一個奢る!」
「俺、あんまん派」
「…いいの?」
「え、よくないの?」
「全然いい!あんまんね、了解!」
そして二人で、コンビニに寄った。
私が肉まん、彼があんまん。
なぜ私は彼を誘いたかったか、実は今でもよくわからない。恋とは違う気がする。
でもその日彼と食べた肉まんはいつもの倍美味しくて、食べる終わるのが勿体無くて、いつもよりもゆっくり食べた。
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