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突然カノジョになったキミ
「私と付き合って!恋人として!」
「……はい?」
突然、俺は固まった。目の前には、クラスメートの美少女がいる。そして唐突に呼び出され、告白される。ギャルゲーの世界にでも迷いこんだっけ、と俺はしばし真剣に考えた。普通ならば舞い上がってウハウハしそうなシュチュエーションであるのだろうが――なんといってもこれは現実。ギャルゲーやら異世界もののライトノベルやらのように、無条件で突然美少女に愛されまくる展開など普通はあり得ないのだ。
それこそ、何らかの特別な補正がかかっているか――誰かの嫌がらせでもなければ。
俺はちらり、と廊下の角を見た。あれで隠れたつもりなんだろうか。目の前の美少女――もとい橋本亜莉愛といつも仲良くしている女友達数名が、ちらちらとこちらを伺っているのが見え見えなのである。
ああこれは、と俺は察した。いわゆる、罰ゲームというやつなのだ、と。
そう、だからさっきから亜莉愛は“付き合って”と繰り返すのに、俺に対して“好きだ”とは言わないのである。
――なんか賭けでもしちゃったのかな。可哀想に、俺みたいなジミメンに告白する羽目になるなんて。
こんなこと、口にしたら怒られるのはわかっているが。俺はなんだか彼女が気の毒になってしまった。亜莉愛はクラスで一番人気の、いわゆるアイドル的存在である。長くウェーブした茶髪にぱっちりした眼はお人形のように愛らしい。加えて品行方正な優等生、成績も良ければ運動神経も良く、おまけに名家のお嬢様という出来すぎた女の子だ。到底、俺なんかに惚れる要素などあるはずもない。
確かに同じクラスではあるが、話したことは数えるほどしかないのだ。むしろ嫌われているとさえ思っていた。なんといっても、挨拶一つさえ無視されたり、露骨に避けられることが少なくなかったものだから。
――ここで俺が罰ゲームだろ、なんて言ったら……恥かいちゃうんだろうな。まあ、これで真に受けてOKしたら、笑われるのは俺なんだろうけど。
その方がマシか、と思う。いくら親しくないとはいえ、嫌いでもなんでもない女の子を傷つけるのは楽しくない。
「別にいいけど」
だから、とりあえずこう答えて様子を見ることにしたのである。
「でも、悪いけど俺、橋本さんのことまだ全然知らないし。友達からスタートってことにしてもらえないかな」
多少プライドは傷つけてしまうかもしれないが。相手のことをよく知りもしないのに、格好だけでも付き合うなんてことは土台無理なのだ。これは、コマンドで簡単に好感度を上昇させられる、ゲームの世界ではないのだから。
それにしても、亜莉愛の友達は何をしているのだろう。隠れているのにきゃあきゃあと声を上げては、全く隠れた意味がないと思うのだけど。
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