1回目〜4年前〜(悠)

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「この人が今回のターゲットだ。」  画面に映し出された女の顔に目を向ける。30代か……40代? 女は顔を作るから……。これは運転免許証……? たぶん運転免許証かマイナンバーカードの写真だ。 「詳細はスマホに入れてある。とにかく4年半前から記録がない。死亡届も出ていない。登録されている住所に出向いて生存を確認してくれ。亡くなっているなら、何故亡くなったかまで知りたい。」 「はい。」  管理人が立ち上がるのと同時に俺も席を立つ。やはり俺よりデカかった。184㎝の俺よりも5㎝ぐらい高いか? 肩幅も負けてる。うーん……何となく敗北感が……。 「財布とスマホはテーブルにある。メガネは持ってきたか?」  俺は昨日顔に合うように調整したメガネを管理人に渡して、ダークブラウンのテーブルに向かい、財布の中身を確かめた。小銭も含めて3万円ほどある……。何に使うんだ? 「宿泊代も含んでいる。その金で泊まれる所なら特に指定はしない。もし、今日中にケリがついたら戻ってこい。ケリがつかなくとも、明日の夕方6時までには戻るんだ。残金は返してもらう。」  何だ。全部貰えるわけじゃないんだ。差し出されたメガネを受け取りながら、最初から聞きたかったことを尋ねた。 「分かりました。最後に聞いてもいいですか?」 「何だ?」  この、少し見下ろされてる感が悔しいな。ま、年上っぽいし。しょうがないか。 「お名前は?」 「巌城洸一。『洸一』だ。」 「巌城さん……。この仕事は長いんですか?」 「『洸一』だ。……2年近くここにいる。その前は地下にいた。あと、聞いていると思うが、メガネは外すな。寝るとき以外はスイッチを切るな。分かったか?」  丸2年か……。その前は地下。若く見えるけど30代か? 後半ではないだろ……前半? 財布をジーンズの後ろポケットに入れ、スマホを片手に頷いた。 「分かりました。……行ってきます。」  出入り口はわかっている。窓の左側だ。窓には、上部に一面の曇り空と、その下に薄暗い空間が映っていた。 「ちょっと待て。」  まさに手紋を合わせようとした時、後ろから呼び止められた。 「その髪……派手すぎる。帽子を被れ。」  後ろから帽子を被せられた。気に入ってるんだけどな。このブラウンベージュの髪の色……。 「では、行ってきます。」  ま、いいか。目立つなってことだ。帽子を被り直して気を取り直し、改めて過去に続く扉を開いた。
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