1回目〜4年前〜(悠)

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「おっと……。」  思わず声が出た。地面に降りたのに何故か登ってたって感じ。何だこの感覚?  薄暗い2畳ほどの空間には、片隅に赤のカラーコーンが重ねて置いてある。……物置か? 人ひとりが通れるぐらいの壁の間を抜けると、上部がガラスで覆われた引き戸があった。 『やっぱり、物置っぽいな……。』  外に出て振り返ってみる。ショッピングモールの駐車場の片隅にあるコンクリートでできた物置。前面に木が植えられていて入り口が目立たなくされている。 『この年代に、あのショッピングモールの4階に上がるとどうなるかな?』  行ってみたい気持ちを押さえつける。そもそもまだ9時だ。店は開いてないだろう。出てきたのは10月10日の午前10時近くだったが、今は4年前の8月31日午前9時。 『……という事は、明日の5時にはここに戻らないといけないわけね。混乱するな……。』  俺はスマホを操作して明日の午後4時に通知が来るように設定し、メガネのスイッチを入れると駐車場を後にした。 「暑いな! さすがに。」  モールのそばにあるバス停へ向かいながら4年前を思い出す。俺は都内の私立大学に進み、一人暮らしを楽しんでいた。が、生まれ育ったのはこの街だ。バスで2つほど行った所に自宅がある。学生の頃はほとんど正月しか戻らなかった。バイトと遊びを堪能していた。 『今訪ねたら、母さんビックリするだろうな!』  行ってみたい気もするが、ここは我慢だ。不審者として通報されちゃたまらない。4年前より背も高くなったし……。  ターゲットの住所を地図アプリに入れて確認する。わりと近い。駅の近くだ。過去に何度も乗ったことのあるバスに、迷うことなく乗り込み駅前を目指した。 『そういえば、出来るだけすれ違う人の顔を見ろって言われてたな。』  バスに乗って座ったのに、今更ながら後ろを振り返って誰がいるか見た。その後は景色を堪能する。現在とさほど変わりはないが、それでもいくつか変わった建物があった。  駅前に着いてバスを降り、目的地を検索する。ここから600mってとこ。すぐにたどり着ける。繁華街をぬって、静かな住宅街に入りしばらく歩いて目的地に着いた。 『あれ…? 家がない。』  地図上に示された場所には家がなく、更地になっていた。どうしようか迷う。周辺を彷徨いて、木が生茂る神社を見つけ、とりあえず涼を求めて木陰に避難した。
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