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はあっ? ……俺「ゆう」だけど。「じろう」ついてないし……。
「あれっ? どこかで会った? 俺、幸一だけど……。人違い?」
用意していた名前を告げる。そもそも人違いだろ。でも、コイツ……どこかで見たような……。この瞳……。
「……うそ……。」
そう言うと、肩を落としてソイツは俯いた。
「誰かに似てた? はい、立って。」
手を掴んで立たせてやる。
「危なかったな。気をつけて帰れよ。」
服の埃を払ってやると、ソイツはビクッと体を波打たせた。
「じゃ、な。」
長居は無用と歩き始める。後ろから、小さな呟きが聞こえてきた。
「あ、ありがとうございました。」
その声は何処かで聞いたことがあるような気がした。
「ただいま戻りました!」
「過去の部屋」に戻ってきた。……あれ? 誰もいない? パソコンの画面はついたまま、部屋にある 3つの間接照明も点いたままだ。どこだ?
「すみませーん! 洸一さーん! 戻りましたー!」
「早かったな。」
急に左側の奥にある壁が開いて、腰にバスタオルを巻いただけの洸一さんが出てきた。上半身裸……。風呂に入ってたのか? まだ4時過ぎだぞ? 羨ましいぐらい体が締まっている。いいな。俺もジムに通うか……。
「ちょっと待ってろ。」
そう言うと、洸一さんは正面にある壁を開いて中に入って行った。チラリと見えた部屋の中には大きなベッドがあった。本棚も見えた。管理人室だ……洸一さんの住居。
「4時に風呂ですか……。」
あっという間に着替えてきてパソコンの前に座った管理人が、俺が何気なく言った一言でジロっと睨んできた。
「汗かいたからな。」
へぇ。筋トレでもしてたのか? だからいい体してんだ。俺は無理だな。1人じゃ続く気がしない。
「えっと、今回のミッション、クリアしたと思うんですが。」
メガネ、と手を出され、メガネのスイッチを切って渡しながら隣の椅子に座り、話しかけた。
「ああ、大丈夫だ。よくやったな。あそこで老人に聞いたこともいい判断だった。」
「えっ!? 何で知ってるんですか?」
まさか、あの場所に来てた? ……俺の言葉に洸一さんが、ため息をついた。
「お前、本当に研修で何聞いてたんだ……。生田と奏が説明したはずだ。」
生田と……奏? 奏って……小野寺先輩? うん、奏だったかも……。
「まあ、いい。メガネを通して映像を追っていたんだ。お前が接触した人やすれ違った人のほとんどは確認済みだ。後20分はこの部屋にいろ。後ろのソファで寛いでいていい。」
俺は言われた通り、後ろにあるソファに座った。さっき、裸で洸一さんが出てきた壁の隣にくっつくように置いてある。改めて部屋を見渡した。光源は右側にある窓と間接照明が3つだけ。壁と同じ色の藍色の天井には所々小さな穴が空いていて、小さな緑色の光が瞬いているところもある。
『ちょっとしたプラネタリウムみたいだな。』
「コイツ……お前の知り合いか?」
洸一さんが体をずらしてパソコンの画面を見せてきて、思考を中断させられた。さっき4人に絡まれていたところを助けた奴だ。
「いいえ……。何か?」
「お前の卒業した所と、同じ高校の奴だ。」
その言葉で、何かが記憶の片隅を揺さぶって……離れて行った。
「いや、知らない奴でしたね。」
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