4年前、路地裏で(真人)

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「奥村くん!」  バスを降りてすぐに、俺を呼ぶ声が聞こえた。声のした方に顔を向けると、駆け足で近づいてくる女の子が目に入った。クラスメイトの……松岡さんだ。小さなドットが散りばめられた黒いワンピースを着ていて、少し大人っぽい。 「ああ、久しぶり。」  知り合いには会いたくなかったんだけど……。そんな気持ちを押さえつけながら、無理矢理笑顔を作った。 「どこ行くの?」 「うーん、本屋……かな。」  松岡さんは違う事を願う。一緒に……なんて言われたくない。 「そっか。残念。私FOURで待ち合わせて映画を観てくるんだ。」  ホッとした。俺とは反対だ。たぶん、これからバスに乗るとこだ。 「バスが来るまでちょっと話しない?」  松岡さんの言葉に同意して、近くの自販機で2人でお茶を買った。 「誰と待ち合わせ? 彼氏?」  こちらから聞いてみた。制服とは違ってとてもオシャレをしている。大人っぽい。化粧もしてるかな? 「やだ、違うよー。美里と優梨。」  ああ、そうか。陸上部の3人だ。この3人は結構ボーイッシュで気さくに話しかけてくる、女の子の中では数少ない話しやすいクラスメイトだった。 「へぇ、なに観てくるの?」  松岡さんの少し長くなった髪の毛を見ながら話しかける。陸上部は県大会まで行ったんじゃなかったっけ? ……あれ? 引退したのか?  今話題のSFアクション映画を観てくるらしい。話を聞きながら、もうそろそろバスが来ないかな、と考え始めていた。 「ね、奥村くん、付き合ってる人いないの?」  いきなり話題を変えられて、反応が遅れた。 「あ? ……ああ。今はいないよ。」  というか、今までいた事ないけど。 「……好きな人がいるってほんと?」 「まあね。」  一年以上これで通してきた。いつも通りに答える。 「……誰か……聞いてもいい?」 「……。」  それは内緒だよ。誰にも教えたことがないし。……流せばいいだけなのに……いつも通りの言葉が出てこなかった。何て言おうか考えながら青空に目を向ける。今日も遠くに入道雲が見えるだけで真っ青な空が広がっていた。   俺の好きな人……去年の10月に突然出会い、嵐のように俺の身も心もかき乱して去って行った……裕次郎さん……。  黙り込んだ俺の様子を見ていた松岡さんが、しばらくしてポツリと呟いた。 「苦しい恋、してる?」 「ははっ、そうかもね。松岡さんは?」  無理矢理笑顔を貼りつけて松岡さんを見た。 「私も……叶わない恋をしてるかも……。」  なんて言ったらいいか言葉を探しているうちに、松岡さんが乗る予定のバスが入ってきた。 「じゃ、私行くね! また明日、学校で!」  急に立ち上がって笑顔になった松岡さんにホッとする。 「うん。また明日。」  松岡さんを乗せたバスは、程なく停留所を離れて行った。
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