74人が本棚に入れています
本棚に追加
お腹を満たしてから駅からちょっとだけ離れた場所にある電器屋に向かった。4階建てのビルが丸ごと店のフロアで、何でも売っている、この辺に住む人たちがよく利用する店。3階に炊飯器や電子レンジなどと一緒にホームベーカリーを見つけて、機能や値段を調べる。
『食パンを作るにしても……これじゃ少ないかな。』
毎日のように仕入れている食パン。やはり、家庭用のホームベーカリーでは賄いきれないようだ。でも値段は手頃で、俺が持ってきた財布の中のお金でも今すぐに買えそうだった。
『母さんの誕生日プレゼントに買うのもいいかも。』
母親の誕生日は来月だ。ホームベーカリーを買うのは後にするとして、やはりパン作りの本を一冊買って帰ろうと、また本屋へ向かうことにした。
本屋への近道を辿ろうと細い路地裏に入った。前から4人の男が大きな声で話をしながら歩いてくる。スマホの画面を時々覗き込みながら……動画が何かを見て夢中になって話をいるようだ。だんだん近づくが、まだこちらに気がついていない。
『嫌だな……。どこの高校だ?』
自分と同じくらいに見えるから、高校生だろう。でも見知った顔ではなく、違う学校だと判断する。同じ学校の生徒は、顔を見れば何となく判別ついた。細い道いっぱいに広がって歩いてくる。脇にどけようか……引き返すかとも思うが、女々しくて何となく嫌だ。でも、ぶつからないように、極力端によってすれ違おうとした。
「でさ、ここのサイトのモノがさ……ってっ!」
ほんの少し肩が触れただけなのに、大袈裟な声を上げて1人の男が立ち止まった。
「おい、待てよっ!」
肩を掴まれて引き戻される。触れた肩よりこっちの方が痛い。
「何か……?」
肩を押さえて振り返ると同時に、4人に囲まれてしまった。
「何かじゃねえよっ! 今ぶつかっただろ? 謝れっ!」
ぶつかった男が声を荒げる。俺と同じくらいの背の高さ……。お互い様だろ? お前たちだって前を見て歩いてなかったんだ。こっちは端に寄ってぶつからないように気を使ってた……ほんの少し肩が触れただけで何で俺の方が謝らなければならないんだ?
「…….。」
沸々とわき上がる怒りが俺を黙らせた。無言で男たちを見る。相手は4人。喧嘩になったら負けるのは目に見えてる……。でも、だからといって謝る気持ちにはならなかった。
「おいっ! なんか言えよっ!」
1番小柄な男が俺の肩を押してきた。体に似合わず思ったより力があって、思わずよろけて尻もちをついてしまった。男たちが間をつめるように前ににじり寄る。どうする? 謝る? ……やっぱり……イヤだっ!
「どけよっ!」
「何だテメェ、お前からぶつかってきたんじゃネェか。」
やはり、このままでは済まないかもしれない……。
最初のコメントを投稿しよう!