4年前、路地裏で(真人)

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「あれー? いいの? 4人で1人の子いじめて……。どこの高校? 今、動画撮ってるけどどうする? 警察に電話しちゃう?」  聞いたことのある声が、少しおどけた口調で耳に届いた。反射的に、声のした方に顔を向ける。4人の男も同様だった。金髪の髪の毛を隠すように帽子を目深に被った男がスマホをかざして近づいてきていた。髪の毛の色は全然違うが、その声や眼鏡をかけた顔には見覚えがある。 『裕次郎……さん……。』 「やべっ、行こっ!」 「行くぞっ!」  その人の声が聞こえて、4人組が慌てたように逃げて行った。逃げていく男たちを目で追いかけているその人に、俺は目が離せなかった。間違いない……。やっと会いに来てくれた。もう、何ヶ月も待ってた……。 「大丈夫? 危なかったな。怪我はない?」  大通りに走って行って見えなくなった4人組がいなくなると、裕次郎さんがこちらを向いて、手を差し伸べてきた。 「ゆう……じろう……さん……。」  思わず呟く。俺です! 真人です! と心の中で叫ぶ……。でも、俺の顔を見た裕次郎さんの反応は薄い。キョトンとした顔をしている……。 「あれっ? どこかで会った? 俺、幸一だけど……人違い?」 『こういち……?』  目の前にいるこの人は俺の頭の中にある裕次郎さんと、何も変わらない。あの時はスーツで、こんなにラフな服装じゃなかった。髪の色も真っ黒だった……。でも、でもこの声……この表情……この喋り方……。 「……うそ……。」  こういち……世の中に自分と似た人が3人はいると聞いたことがあるけど、この人はその中の1人なのだろうか。裕次郎さんに似た……。俺は言葉にならないくらいがっかりしていた。何ヶ月も待った……。『待ってて。』という言葉を信じて待っていたんだ。 「誰かに似てた? はい、立って。」  いきなり腕を掴まれて引き上げられた。立ち上がった拍子に間近で顔を確認する。……やっぱり似ている……。でも、でも左の頬に小さなホクロが見える。あったかな? 裕次郎さんには、なかったような……。細かなところまで思い出せない。 「危なかったな。気をつけて帰れよ。」  体を屈ませて俺の背中から臀部にかけてパンパン、と砂を払ってくれた。臀部に触れられた途端に、俺の身体が無意識に跳ねた。……ヤメて……裕次郎さんじゃないなら……触らないで……。 「じゃ、な。」  俺の顔をチラッと覗き込み、「こういち」と名乗った人は背を向けて歩き出した。その姿にハッとする。まだお礼も言ってない。 「あ、ありがとうございました。」  片手を上げたその人は、後ろを振り返ることなく行ってしまった。……裕次郎さんではなかった……。 『裕次郎……さん……。』  俺はしばらく、そこから動けなかった。
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