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「あ? ああ。伊那村、伊那村悠。」
別に名前教えてもいいよな? このモールの中なら友だち作ってもいいんだから。機密事項さえ喋らなければ……。
「君は? なんて名前?」
改めて見ると、本当に女のような顔をしている。色白の肌。細い眉。大きな目。真っ赤な唇……。
「僕は……繁田(しげた)よしみと言います。」
繁田……。確か家具屋の名前が「SIGEDA」だったはず。やっぱり家具屋の親戚なんだろうな。よしみなんて名前も中性的だ……なんて言ったら失礼か。
「へぇ、よしみってどんな字?」
「与える志の己れで、与志己です。」
うん、漢字で見るとしっかり男だな。そんな事を考えながら話を繋げた。
「いい名前だね。」
「あ、あの……夕飯一緒にどうですか?」
不意打ちを食らって一瞬戸惑った。オイオイ、ついさっき知り合って今名前聞いたばかりだぞ?
「んー。」
ま、いいか。モールの中でなら行動は自由だ。友だち100人出来るかな、に挑戦だ。まずは一人目。
「いいよ。このモールの中でいい?」
「はいっ!」
女みたいな顔を薄く染めて、与志己が笑った。なかなか可愛いじゃん。
「どこにする? そういえば、シャワーはいいの?」
「高速で浴びて来ます!」
ちょっとだけ待っててください。そう言ってあっという間に脱さいだ服をロッカーに突っ込んで、シャワー室へ消えていった。俺も与志己の下半身に釘付けになった。
『……うそ。』
……初めて見た。全然「ない」男の体……。
シャワーを終えた与志己を伴って、「元」に夕飯を食べに来た。モールの中で唯一の酒を提供する店。でも、モールの閉店とともに店も閉まるから、長居はできない。職場の飲み会はいつもここと決まっていた。
「僕、ここは初めてなんです。」
カウンター席でもいいかという店員の案内に同意しながら暖簾をくぐる。与志己が傍で弾んだ声を上げた。
「あれ? 年いくつ? 成人は……してる?」
俺の問いに与志己が笑い声を上げた。
「フフフ、僕、これでも25ですよ。」
「何っ!?」
俺より年上? 全然見えないぞっ!? 反則だろ。……年齢不詳ってやつだ。
「悠さんはいくつですか?」
カウンター席に着くと、真面目な顔になって与志己が聞いて来た。俺は誕生日が6月で24歳になった。もう既に5か月近く過ぎてる。
「俺? 幾つに見える?」
単純に幾つに見えるか興味があった。
「28ぐらいかな……。」
なぬっ!? アラサー?
「ちょっとだけショック。……教えてやんない。」
本当にショックだ。アラサーがブラウンベージュの髪色してるか? ……してるのかも。髪型変えるか? 色も変えて……。
「あれぇ? ……伊那村?」
俺の左側に座る与志己の奥から、聞いたことのある声が聞こえた。与志己から2つ席が離れた所に2人連れの男が座っている。2人とも同じようなジーンズを履いてカジュアルな格好をしていた。奥に座って顔を覗かせている人物と、俺たちに背中を見せて顔だけ振り向かせた男に見覚えがあった。
「小野寺先輩! ……と、洸一さん?」
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