2回目〜1年前〜(悠)

2/11
前へ
/118ページ
次へ
「あ? ああ。伊那村、伊那村悠。」  別に名前教えてもいいよな? このモールの中なら友だち作ってもいいんだから。機密事項さえ喋らなければ……。 「君は? なんて名前?」  改めて見ると、本当に女のような顔をしている。色白の肌。細い眉。大きな目。真っ赤な唇……。 「僕は……繁田(しげた)よしみと言います。」  繁田……。確か家具屋の名前が「SIGEDA」だったはず。やっぱり家具屋の親戚なんだろうな。よしみなんて名前も中性的だ……なんて言ったら失礼か。 「へぇ、よしみってどんな字?」 「与える志の己れで、与志己です。」  うん、漢字で見るとしっかり男だな。そんな事を考えながら話を繋げた。 「いい名前だね。」 「あ、あの……夕飯一緒にどうですか?」  不意打ちを食らって一瞬戸惑った。オイオイ、ついさっき知り合って今名前聞いたばかりだぞ? 「んー。」  ま、いいか。モールの中でなら行動は自由だ。友だち100人出来るかな、に挑戦だ。まずは一人目。 「いいよ。このモールの中でいい?」 「はいっ!」  女みたいな顔を薄く染めて、与志己が笑った。なかなか可愛いじゃん。 「どこにする? そういえば、シャワーはいいの?」 「高速で浴びて来ます!」  ちょっとだけ待っててください。そう言ってあっという間に脱さいだ服をロッカーに突っ込んで、シャワー室へ消えていった。俺も与志己の下半身に釘付けになった。 『……うそ。』  ……初めて見た。全然「ない」男の体……。  シャワーを終えた与志己を伴って、「元」に夕飯を食べに来た。モールの中で唯一の酒を提供する店。でも、モールの閉店とともに店も閉まるから、長居はできない。職場の飲み会はいつもここと決まっていた。 「僕、ここは初めてなんです。」  カウンター席でもいいかという店員の案内に同意しながら暖簾をくぐる。与志己が傍で弾んだ声を上げた。 「あれ? 年いくつ? 成人は……してる?」  俺の問いに与志己が笑い声を上げた。 「フフフ、僕、これでも25ですよ。」 「何っ!?」  俺より年上? 全然見えないぞっ!? 反則だろ。……年齢不詳ってやつだ。 「悠さんはいくつですか?」  カウンター席に着くと、真面目な顔になって与志己が聞いて来た。俺は誕生日が6月で24歳になった。もう既に5か月近く過ぎてる。 「俺? 幾つに見える?」  単純に幾つに見えるか興味があった。 「28ぐらいかな……。」  なぬっ!? アラサー? 「ちょっとだけショック。……教えてやんない。」  本当にショックだ。アラサーがブラウンベージュの髪色してるか? ……してるのかも。髪型変えるか? 色も変えて……。 「あれぇ? ……伊那村?」  俺の左側に座る与志己の奥から、聞いたことのある声が聞こえた。与志己から2つ席が離れた所に2人連れの男が座っている。2人とも同じようなジーンズを履いてカジュアルな格好をしていた。奥に座って顔を覗かせている人物と、俺たちに背中を見せて顔だけ振り向かせた男に見覚えがあった。 「小野寺先輩! ……と、洸一さん?」
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加