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「いらっしゃいませ。あら、お帰り。」
「……ただいま。」
店の中を通り、家に帰る。6時を過ぎたばかりの店は、2組の客がいるだけだった。コーヒーの香りがあたり一面に漂っている。手伝いは必要なさそうだ。カウンターの後ろへ回り自宅への扉を開ける。
「真人、今日は大丈夫。後で夕飯もって行くから。」
「うん。」
母さんと短く会話をして、中に入り込む。部屋に行って制服を脱ぐ。シャワーを浴びてしまおうか……。ついでに風呂も洗っとこう。俺は、着替えを持って風呂場にむかった。
頭からシャワーを浴びながら、谷村のことを思い出す。彼女と付き合い初めて1か月は経ったはずだ。もうキスはしただろうな……。友だちといろいろ話すうちに、みんなの恋愛事情が分かってきた。付き合い初めて1か月で最後まで行く奴も結構いる。
「奥村、お前童貞かよ?」
友だちの経験談を聞いて、へー、と感心した俺に友だちの1人がからかった。
「お、お前らが早すぎるんだって!」
あの時はちょっと恥ずかしかった。でも、女の子相手にそんな気分になるわけがない。無理矢理そんな状況に持っていっても勃たなければ意味がない……。
『……まこと……。』
半年前に一度だけ呼ばれた先輩の声が蘇る。長い指で頬に触れられた……。気がつくと、俺は膝を床につけて自分の後ろを指で弄っていた。先輩の長い指。俺の中を探っている……。
「あっ、そこっ。そこに……欲しい。」
空想の中だけでは、そこに欲しいものが入ってくるわけではないが、止めることなど出来なかった。少し弄っただけで、俺の分身は硬くなる。見たことのない先輩のモノを想像する。
『……先輩……!』
……俺は白濁を飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
呼吸を整えながら自分の出したものをシャワーで流す。……少しだけ恥ずかしい。でも、1度出せば満足だ。手早く体を洗い、浴槽の中も綺麗にして風呂場を後にした。
「真人、はい夕飯。」
「ありがとう。」
母さんが夕飯を持ってキッチンに入ってきた。スポーツドリンクを飲んでいた俺は、ペットボトルを傍に置いてナポリタンとサラダが乗っているお盆を受け取った。
「いただきます。」
フォークを掴んでスパゲティを絡める。母さんが向かい側の席に座った。
「……?」
母さんが座る時は何か俺に話がある時だけだ。「何?」という意味を込めて視線を送る。
「真人? 店の手伝い毎日しなくとも大丈夫よ? 友だちの付き合いとか……無理してない?」
「いや……してないよ。」
友だちに誘われることは結構あるが、いつも店の手伝いがあると言って断っていた。本当は、俺のセクシャリティーがバレるのが怖いだけ。学校の中だけなら何とかなるが、個人的に深い話をするようになって、どこでボロが出るか分からない。
「……でも、明日は休みだし、ちょっと遊びに行ってこようかな?」
俺の言葉に、母さんがほっとしたように笑顔を見せた。
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