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ガタンッと鈍い音がして取り出し口から缶ビールを取り出すと葭弥はプルトップを開けた。
勢いよく喉に流し込むそれはよく冷えていて葭弥の頭の中をも冷やさせた。
防波堤の傍に立ち、缶を置いて海を眺める。波の音が葭弥を包み込んだ。
真人の気持ちは気付いていた。自分自身の気持ちも自覚していた。
ただ、葭弥には自信がなかった。自分には慎太郎のような経済力もなかったしコネもない。
ましてや成功する保障もない無謀とも言える海外移住と起業に安定性も見えない生活を一緒にさせる事は出来なかった。
二人の間に何があったのかは分からない。結婚をしてもなお関係を強いることは葭弥も間違っているとは思っていたがそれでも真人の生活は保障されている。
慎太郎と居れば彼は何の不自由も無く暮らしていけるはずなのだ。
結婚後の慎太郎とは顔を会わすことはなかった。
世界記録に最も近い男として日々トレーニングに明け暮れ海外遠征にも度々出ていたから彼の活躍は雑誌や新聞で知れた。
真人のことは心配だったが葭弥は信じていた。鈴原慎太郎と言う男のことを。
選手時代からの付き合いだった慎太郎は確かに難しい性格で度々チームメイトとも衝突し自分が仲裁に入ることも多かったが自分の目標に向けてひたむきに努力する姿もちゃんと見ていた。
慎太郎は自分の水泳に満足することはなく常に高みを目指していた。
才能はあっても葭弥はその確固たる強い信念は持っていなかった。
世界選手権でねらわずして出した世界記録に日本中が歓声を上げたが葭弥本人は冷めたものだった。
同じ大会で別競技にて優勝を果たした慎太郎は自分の結果のせいで脚光を浴びることはなかった。
インタビューを終えたプールサイドで悔しそうに壁を殴る慎太郎を偶然見つけ葭弥は自分に欠けている向上心と勝負への執念に気付き引退することを決めた。
自分のような人間に表彰台は相応しくない、慎太郎のような人間こそが人々に祝福され表彰台へと上がる資格があるのだ、と思ったから。
それから趣味だったサーフィンにのめり込むと葭弥は水泳に打ち込む慎太郎の気持ちを理解することが出来た。
サーフィンに関しては誰にも負けたくないと言う思いで必死に海へと駆け出す自分に慎太郎と言う人間をようやく理解出来た気がした。
形はどうであれ、慎太郎はただ純粋に自らが求め、周囲が望む結果を出す為に努力しているだけなのだ。
今はまだその結果、世界新記録という目標に達することが出来ずにもどかしい思いを真人にぶつけてしまっているだけなのだ。
葭弥はふと背後に人の気配を感じて振り返った。
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