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次の日の朝、迎えの運転手付きの車の後部座席に真人は俯いたまま乗っていた。
玄関先で慎太郎と葭弥は向かい合っていた。
「悪かったな。夕べの宿代だ」
差し出す札束を受け取ろうとはしない葭弥に慎太郎は無理矢理ポケットにそれを突っ込んだ。
「ベッド、買い換えるなら領収書を送ってくれ」
意味深な笑みで言う慎太郎に葭弥は首を横に振った。
「どうせ処分するつもりだった」
「そうか。じゃぁな」
帰ろうとする慎太郎を葭弥は呼び止めた。
「マナとは本当にもう大丈夫なんだろうな?」
葭弥の問いに慎太郎はいつもの笑みを浮かべて見せた。
「あぁ。俺も記録の事とかで少し神経質になってたから度が過ぎただけだ」
慎太郎の言い訳に葭弥は納得したように頷きその背を見送った。
車内で俯いたままの真人の横顔に完全に不安は拭い去れてはいなかったがこれで良いのだ、と自分に言い聞かせて。
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