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13.
窓に降り付ける雨と激しい風の音に真人は目を覚ました。
それは大きなクルーザーの船室だった。
丸い窓の向こうには荒れる波が見えて真人は慌ててそれに手を付いて外の様子を窺った。
自分を浚った人間が誰なのかは分かっていた。
「こんな状態で海に出るなんて自殺行為だ!」
緊急事態を悟った真人は出入り口へと急いだ。
ノブを握るが鍵が外から掛けられていて開けることが出来なかった。
丸窓を叩いて傍の運転席に立っている哲雄に訴える。
「三村さん!三村さん!」
その音に気付いた哲雄は舵を握ったまま窓の中を覗いた。
必死に何かを叫んでいる真人の顔が見えたが声は雨風で聞こえない。
「私はお前と共に永遠の若さを手に入れる。俺はまた水泳界に返り咲きあの栄光を再び手にするんだ!」
哲雄の叫びは真人にも聞こえなかった。
慎太郎と共に真人の体を調べていく内に一つの仮定が生まれた。
彼の特異体質は遺伝子に何らかの異常が見られるからではないだろうか?
水が無ければ生きていけず魚のように泳ぐ真人には天性の才能と言うよりも本能が働いているように思えたから。
海で泳ぐ彼には自然と魚達が寄り添い、まるでそれらと心を通わせているように見えた。
不思議な存在だった。
そう、まるで神話として語り継がれる人魚を見ているような感覚だった。
どれだけ泳ぎ続けても疲れを知らない真人の体内細胞を調べると彼の実年齢よりもそれは若く、そして研究を続けた三年間、顕著な衰えは見られなかった。
日々、自身の体力の衰えを実感しひたすら体を鍛え上げてその速度を少しでも遅くさせようともがくスポーツ選手にとって真人の体は神秘とも言えた。
語られる人魚伝説を哲雄と慎太郎は片っ端から調べ上げた。
実在したのかただの神話なのか。答えが載っている物は何一つ無かったがある特性を知ることが出来た。
人魚の血肉を食すると不老不死になる、と言われるのだ。
真人の体内は完璧な人間であったから不死とは言わずとも不老の性質を持っていると仮定すればつじつまが合った。
信じられないような事実に慎太郎と哲雄は言葉を失った。
自分達が見つけたのは奇跡の存在かもしれない。
そして彼の体質を自分達に移植出来れば同じような効果を生み出せるかもしれない、と考えた。
「このクルーザーなら本島まで行ける。お前を日本に連れて帰って私はこの研究を成功させる」
揺れるコンパスの指針を確認しながら哲雄は荒れる海へと船を進めたのだった。
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