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申し込みは簡単だ、各種の個人情をネットのフォームに書き込んで送信。
しかし、今までマラソンなんて興味が無かったから、走る権利を得る為に抽選があるなんて知らなかった。数年間外れっぱなしの人がいるなんて事も知らなかった。メールで届いた当選通知は運が良かったのか悪かったのか……。
何故なのかを言うと。
走って走って、気が付いたら知らない場所に来ている。
コースがどうだったのか、先導や警備や運営、沢山いた筈の他のランナーがどうなったのか、てんで覚えが無い。
半ば以上は走ったような気もするけど体力はまだまだ十分残っている。
ボンボン佐伯によると、体力よりも膝が駄目になり足首が駄目になり、意外な事に腕を振る肩の付け根が駄目になると聞いていた。
しかし体のどこも痛く無いし、走っている時から絶好調だったのだ。
このまま走ればもしかしたら2時間台もいけるんじゃ無いかなって思った頃、ふと海が目に入った。
やけに鮮やかなブルーの海。
晴れ渡った空にプカプカと気持ち良さそうに浮かぶ綿菓子のような雲が水面に写る凪いだ海だ。
まあ、何せフルマラソンは42.195キロもあるのだ。延々と一方向に真っ直ぐ走ればそりゃ海も見えるかもしれないが……
「コースに…海沿いの道なんかあったかな…」
どうせ誰かの背中に付いていけばゴールするだろうと、どこをどう走るか確かめたりして無かった。それはいいけど、おかしいのは海じゃ無い。
まず風景が変だ。しつこいくらいに立ち並ぶスポンサーの名前が入った旗がないのだ。
沿道に溢れていた観客もいない。
何よりも他のランナーがいない。
あるのは広い海と延々と続く酷く穏やかな緑の平地だけだ。
つまり、知らない間に、どこかでコースを外れ、そんな事にも気付かずに走り続けて……
迷子になってる。
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