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実は、子供のように手を引かれて歩いていくと誰もいないと思っていた道には結構人がいた。
みんな手ぶらな上、ラフな格好をしているから家の近所を散歩してるって感じなのだが、今の所住宅街はおろか建物や電柱、どこにでもいる車は見えない。
それは多分、景観規制がとても厳しいって事で、そうするとやっぱり有名な観光地って事で、それなのに観光バスも車もいないなんて不思議だけど、もしかしたらまだあんまり知られてない希少な穴場なのかなって思う。美しい白砂の広い海岸は夏に来たら楽しそうだ。アパートに帰ってから交通アクセスを調べてみようって気になってる。
もう一回走るのは嫌だからね。
それはいいとして、今、問題なのは男同士の手繋ぎは厳しいって事だ。何だか歩いている人が増えているのだ。
みんな同じ方向に向かっているのはちょっと異様だが、すぐに喧騒に溢れる町が開けているんだろうと思う。
「あの〜……遥果さん、もう手は…」
「もうちょっとだからいいじゃん」
「はあ…」
いいじゃんとは?
必要かどうかより手を繋ぎたいから繋いでるってニュアンスに聞こえた。何だか危ないような気がして、自然と離れちゃったフリをしようとよろけてみたけど、更にグッと強く握り返されただけで遥果は手を離してくれない。
その小さな抵抗を見られたのか、丁度隣を歩いていたお爺さんに何とも言えない生温い笑顔を頂いた。
まあ、知らないお爺さんなんてもう会う事も無いし笑われてもいいんだけど、街中に入ったらきっと女子もいる、そうなればさすがに離して貰おうと思う。
それにしても、俺は今マラソンのつもりで走って来た道を更に進んでいる。つまり規定のコースからは益々遠ざかっているって事で、そこには電車もバスもあるだろう。お金を借りて交通機関で帰ったら完走はもう無い。
佐伯の6時間より更にカッコ悪いな……なんて考えていると、「ここだよ」と遥果が言って手を離してくれた。
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