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もっとも、ふだんからマスメディアに露出しているタレントや俳優を相手にしている彼らにしてみれば、久遠ほどの有名人ならまだしも、彼の劇団に所属する自分みたいないち役者などは、所詮、その辺りのエキストラに毛が生えた程度の存在でしかないのだろう。
「こんにちは。本日は雪でお足もとが悪いなか、お集まりいただきありがとうございます。この度、十川遥(そがわよう)役を務めさせていただくことになりました伊能史隆です。原作のファンも多いと伺い、恐縮しつつも大変光栄に思っています。ご紹介にあずかりました通り、今回、映画への参加は初めてですが、ご指名くださった監督のご期待に少しでも副(そ)えるよう精いっぱい役を演じさせていただく所存です。よろしくお願いいたします」
その予想通りと言えば予想通りの反応に、かえって適度に緊張が解けたことで自然と口許がほころぶ。
一般社会でもそうだが、特にこの芸能界においては、第一印象が今後の活動を左右すると言っても過言ではない。だが、改めてそれと意識せずとも、笑顔は幼いころから伊能にとってのデフォルトだ。別にそれが悪いことだとは思わないし、むしろ対面する相手を不快な気分にさせるよりはよほどいい。
「はい、ありがとうございます。──それでは次に、こちらも同じくすでにご存じの方が多数いらっしゃるかと思います。昨年、人気絶頂のなか、惜しまれながらも解散した伝説のロックバンド『オラシオン』の元リードボーカルにして、今年、役者に転向されたばかりの沓見響(くつみゆら)さんです。どうぞご登壇ください」
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