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 これまでも自分が出演した舞台公演などで、少なからず同じような反応を目にしてきたはずなのに、その光景は何故か直截(ちょくさい)に伊能の胸に迫った。 「よくさ、大きな天災のたびに、エンターテインメントなんて何の役にも立たないって槍玉に挙げられるじゃない。実はここだけの話、俺もその無力感に苛まれたひとりって言うか、まあ、一種の燃え尽き症候群みたいになっちゃってたんだよね。……ちょうどそのタイミングだったんだよな。八雲が『玉響』を撮らないかって話を持ちかけてきたのは」  ──ただ、今回は──『玉響』だけは俺の好きにさせてもらう。  自嘲気味に明かされた意外な事実に、まだ撮影が始まったばかりのころ、決意表明のようにふと楢橋が口にした言葉を思い出す。そこには、豊かな才能と紙一重の、どうすることもできない現実への懊悩がひそんでいた。 「だけど今回、きみたちと一緒に仕事をしたおかげで改めて確信できた。──俺たちは無力なんかじゃない。多くのひとの心を動かすのは、やっぱりこうやってひとの手を経てつくり出されたものなんだって」 「……監督……」 「だから、お礼を言いたいのはむしろ俺の方。あとはジャンルは違えど、これからも同じ志をともにするきみたちに、今の俺ができるせめてもの餞(はなむけ)くらいに思っててよ」  清々しい笑顔で言い切ると、握手を求めるようにこちらに手を差し出してくる。その手を沓見と順番に握り返したところで、客席の方から上がったひときわ大きな歓声が伊能の鼓膜と心をふるわせた。
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