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それから、ひとりひとりが生み出すかそけき音が、しだいに会場中に響き渡る割れんばかりの拍手に変わっていくさまも。
「さあ、おふたりさん。みんながきみたちの登場を今か今かとお待ちかねだ。──覚悟はいいかい?」
「はい」
その言葉にしっかりと頷いて、楢橋が口にした「覚悟」の本当の意味を噛みしめる。沓見と互いに歩んでいく道の先で、いつかまたそれぞれの夢が交差することもあるだろうか。一見、何の接点もなさそうなふたりが、いくつもの偶然に誘われるようにして、こうして思いがけない出会いを果たしたように。
そう考えたら楽しくてたまらなくなって、隣の沓見に視線を移すと、彼もまた強い眼差しで伊能を見ていた。そんな彼に小さく頷いてみせると、沓見とふたり、観客たちが待つ舞台の中央へと足を進める。
「それでは大変長らくお待たせいたしました。今回の映画『玉響』でダブル主演を務めたお二方のご登場です。──伊能史隆さん、沓見響さん、どうぞこちらにお越しください」
(完)
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