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「大丈夫ですかって? そう言うあんたこそ頭は大丈夫かよ。有名な監督だか何だか知らねえけど、こんなわけの分からない茶番に付き合わされて、よく平気な顔して頑張りますとか言えるよな。──あんたも聞いたんだろ? この映画の内容」
「……ええ、それは。先に原作の単行本もいただいて拝読しましたので」
見るからに不機嫌そうなこの初対面の男が言わんとしているところを察し、ああ、そうかと深く納得するとともに思わず失笑がもれる。伊能に言わせれば、いったんオファーを受諾しておきながら、この期に及んでごねる方が役者として、いや、そもそも大人としてどうかしている。
「……何だよ。何がおかしいんだ」
「いえ、別に。──でも、あなただって、それを知った上で今回の話を引き受けたんじゃないんですか?」
あくまで笑顔は崩さずに、けれどそこにわずかに含ませた侮蔑に気づいたのか沓見が気色ばむ。そんな彼の反応を冷静に観察しつつ、そうだ、メラビアンの法則とは本来、こういう相矛盾した感情や態度に接したときに、相手が何を基準に判断するかについての考察だったはずだと埒もないことを思い出す。
「……っ、それは、マネージャーが、せっかくの話だから断る道理はないって言って強引に……」
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