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「だとしても、もし本当に嫌なら断ることはできたはずです。そして今日、あなた自身の足でこの記者会見場に出てきた以上、そんな言い逃れは通用しません。──違いますか?」  痛いところを突かれたのだろう、伊能の指摘に沓見が悔しそうに唇を噛む。この業界には珍しく、感情をストレートに面に出すことをためらわない様子が、否応なく彼の役者としてのキャリアの浅さを露呈する。  ──そう、長年、こんな稼業をしているとつくづく思う。人間は矛盾だらけの生きものだ。笑顔を見せたまま心のなかで涙を流し、相手を持ち上げるようなことを言ったその裏で平気で舌を出していたりする。  だが、そうやって、本音と建て前を使い分けながらうまく世間と折り合いを付けている生身の人間を演じることこそが、演劇の最大の魅力であり役者としての本懐なのだと、最近になってようやく実感できるようになってきた。 「もちろん、あなたにもやむにやまれぬ事情があると思います。でも、とりあえず今は我慢してください。あなたひとりの行動が、今日ここに集まっているみんなに影響を及ぼすんです。報道陣にも、そこにいる司会者の方にも、そして監督にも」 「あと、あんたにもだろ」 「……まあ、一応そういうことになりますね」
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