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ウオのメ
空は光を乱反射し、青よりは白に近った。
その光景を見た時、俺はこの世界の残酷さを知った。
空に無数の泡と大きな波を生み出して進む、あの巨大な生物が、轟音を立てて今日も沖へと泳いでいく。
この先の巨大な岩の門を出れば、ここよりも広大な世界と限りない自由が待っている。
だが、その世界はここよりもはるかに深くて暗くて、危険も多いのだ。
その証拠にあの生物は時々、ここへ外の同胞を連れてきては空へと連れていく。
あの生物の休む港から流れる鮮血が、同胞の運命を知らせる。
そんな結末も知らずに藻の生えた網の中で優雅に過ごすあいつらの目ときたら、生気が宿り、焦りもない。
ありあまる自由をまだ謳歌できると思っているのだ。
次第に鱗とヒレが無数に視界に映るようになり、ぶつかりあうようになって、本能が危険を知らせ、生への神経の火花が弾ける。
その激しさは数多の死線を乗り越え、やっとの思いで繋いできた命を奪われる恐怖を体現している。
やがて、抗ええぬ強大な引力を前に抵抗は無駄に終わり、鱗の鏡で乱反射した命の光は激しい泡とともに、空へと吸いとられていった。
その光はまるでもうひとつの太陽のように美しい。
ここは狭いし、自由も限りある。
だが、俺はそれでいい。
皆、誰かと比べれば、誰かよりも不幸で、誰かよりも幸せだ。
比べることに意味はないかもしれない。
それでも、俺は今日もここで暮らし、空を見上げる。
この幸せを噛み締めるために。
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