episode 3. 魔法使いの仕事

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 その後、フォ・ゴゥルの案内でその場所にたどり着いた無名の魔法使いは、改めて封印の儀式を行った。広範囲にわたって魔法を行使するためには、莫大な魔力を有する無名の魔法使いと言えど、いささかの準備が必要だった。封印の結界を張るだけでなく長期間持続させるためにいくつかの呪具(じゅぐ)(魔法の補助アイテム)を準備し、その土地に備え付けた。人間が興味を持って動かさないよう、自然に溶け込む岩や木を使っている。  千年も経てば、当時の封印が劣化し、穴が開くのも当然と言えた。  千年前に封じたこの施設、実は原子力発電所である。しかも、戦争の影響で放射能漏れの事故を起こした発電所だった。人間がやたらに立ち入ると被爆者を量産するため、汚染された領域を限定して封印したのである。  周囲の地域の除染(じょせん)もし直さなくてはならないだろう。  この除染作業――放射能に汚染された環境を生物に無害な環境へ戻すこと――には莫大な魔力を消費する。さらには、原子力と魔力、この両者の相性はとことん悪かった。最盛期の力を持った無名の魔法使いであっても世界中を除染するにはいたらず、五人の魔法使いに知恵を授け、人間たち自身で自らの住まう環境を改善してもらうことにしたのだ。人間たちの生活圏外の建物や地域については、無名の魔法使いが封印した。それで一応の平和が保たれている。  無名の魔法使いがやっていることは、ある意味千年もの間なにも変わっていない。ひたすら核戦争の後始末に追われているのであった。  除染のために魔力を解放しつつ、無名の魔法使いは小さなため息をもらした。 「こんな作業(こと)をするより、お前がおしめを()らして泣いているのを見るほうがずっと楽しいんだがなぁ」  とはいえ、あのような赤子が安全に暮らしていける世界にするためにも、除染作業は行わなくてはならない。またそれが、自身に課した使命でもある。  無名の魔法使いは長いまつげを伏せ、黙々と魔力を解き放ち、汚れた大地を、地下水を、大気を浄化する作業を続けた。封印した発電所の周辺地域をまとめて浄化するのに、丸三日もかかったのだった。
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