episode 6. 望みうる未来

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 ヴェルデを連れて来た職員が、かがみこんで「いいお話じゃないか」とヴェルデの肩を叩いた。 「お貴族さまから養子縁組のお話なんて、ここ何年もなかったことだ」  そもそも養子縁組の話自体が年に数件しかなく、それでも裕福な市民の多いこの地方は、ほかの孤児院よりも恵まれているのだと、職員たちが(うわさ)しているのも知っていた。  ヴェルデは困り果てた。もとより、たった六歳の子どもに、自分の将来ことなど決められるはずもなかった。それだけの思慮も経験も持っていないのだから。  院長は微笑み、「(あせ)る必要はありませんよ」とやわらかい声で諭した。 「養子になったからと言って、必ず幸せになれると決まったわけではありません。養子になったおうちでも、この孤児院でも、どちらでもお前は幸せになるための努力をしなくてはいけないのです」  じっと耳をかたむけるヴェルデの前で、院長は続ける。 「ただ、この孤児院にいるよりも、貴族の養子になったほうが、できることはずっと多くなるでしょう。それに貴族の家柄ならば、お前の好きな、魔法使いにも会えるかもしれません」 「きぞくの人のおうちには、まほうつかいが住んでいるのですか?」  住んでいるとは限りませんが、と院長は笑った。  このあたりの国では、貴族の子弟は学校には通わず、家庭教師に教育されるのが一般的だ。そして、その家庭教師の中に魔法使いがおり、魔法に関する教育を受けるのもまた自然なことだった。 「もう一度、良く考えてごらんなさい」  院長の言葉に送り出され、部屋を出たヴェルデ。  中庭に目をやると、強い日差しと風を受けた木々が、ざわざわと大きな音を立てて葉を揺らしていた。
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