episode 6. 望みうる未来

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 時間の猶予(ゆうよ)がそれほどないことは、院長の話から察せられた。  そこでヴェルデは、孤児院の兄弟たちに話を聞いてみることにした。  最初に声をかけたのは、ヴェルデと同じ部屋のアスティチェンと言う名の子どもだった。細い銀髪と青い瞳の男の子で、ひょろりと細い体と大きな瞳が特徴だ。 「ようし? ヴェルデが? いいなぁ、ぼくもようしになりたいな」 「いいなっておもうの? みんなとサヨナラするんだよ。もう会えないかもしれないよ」  アスティチェンはちょっと首をかしげ、「それは、さみしいかもしれないけど」と言った。だが、やっぱりうらやましいと付け足した。 「だって、自分のおうちができるんだよ。すごいことじゃない」 「今だって、ここはぼくたちのおうちだよ」 「そうだね、みんなのおうちだ。ぼくだけのおうちじゃないもの」  アスティチェンに言われ、そうかそういう考え方もあるのかと思った。  孤児院にあるものは全部みんなのもの。みんなのおもちゃ、みんなの食事、みんなの先生――独占できるものは何一つない。必要なものはみんなで分け合って暮らしているのだ。  それが不幸なことかどうかヴェルデには分からなかったが、自分だけのもの、に憧れを抱く気持ちは理解できた。  ほかの兄弟たちにも話を聞いてみたが、返って来る反応はいずれも「うらやましいな」「すごーい」「いい話じゃないか」という類のものだった。  そういうものなのか、とどこか人ごとのように思っていたヴェルデに、少し違う角度から考えるきっかけをくれたのは、六歳年上の兄弟だった。もつれた毛糸のような黒髪をおさげにした、エレンという名の少女だ。
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