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「これで全部かな?」
つまらなさそうに呟いた無名の魔法使いは、手に掴んでいたものを無造作に離した。
どさっと重い音がして、それが地面に落ちる。じわじわと赤いしみが広がっていった。それは、かつて人間だったものだった。
同じく、フォ・ゴゥルも口に咥えていたものを離す。もの言わぬそれは恨めしそうな目でフォ・ゴウルを見ていた。その視線と血液をふりはらうように、体をぶるりと震わせる。
「解放軍などと御大層な名を名乗っていたわりに、しょぼい連中だったな。我々が手を下さずとも、白い獣どもに任せておけば十分だったかもしれん」
『この程度でテロを計画していたのだから、お粗末な連中です』
無名の魔法使いとフォ・ゴゥルが、白い闇の獣たちを率いて襲ったのは、ある国にテロをしかけようとしていた過激な団体だった。
政略結婚のため、隣国に嫁ぐ花嫁行列を襲撃しようと企図していたのだった。テロ組織はこの両国の戦争をこそ望んでおり、そのために政略結婚を阻止しようとしていた。長いにらみ合いと話し合いの末にようやくまとまった縁談で、これが実現しないと両国の仲はたちまちのうちに険悪になるものと思われた。
戦争は、この世界の秩序を乱す。そこで無名の魔法使いが、テロ組織を一掃したというわけだ。
今頃、花嫁は悠々と国境を越えているはずである。
「まぁ、運動不足の解消にはなったかな」
と埒もないことを言うのでフォ・ゴゥルが反応に困っていると、
「おい。冗談を無視するのは失礼だろう」
と叱られてしまった。
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