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(このところよく町へおいでになるから、余計なことばかり興味を持たれる。困ったものだ)
フォ・ゴゥルは首を振った。人間で言うところの「やれやれ」という仕草だ。
そんなフォ・ゴゥルには目もくれず、無名の魔法使いは白い指をしなやかに躍らせて、空気中から水を呼び出した。そしてそれを、手に持った鉄の鍋に集め始める――なぜ鉄の鍋を持っているのかは不明である。
さきほどスルーしたときに叱られたため、一応「なんですか、それは」と尋ねてみる。
「そろそろ時間だろう? あの幼児は新しい家に無事着いたかな」
(なるほど、つまり鏡の代わりというわけか)
鍋に水を張れば、鏡と同じように、遠くの情景を映し出すことができる。
死体の群れを背に、無名の魔法使いは鼻歌さえ飛び出しそうなほど上機嫌で、即席の水鏡を覗き込んだ。
「ほぅ、なかなか立派な屋敷ではないか」
『住んでいる人間も、立派だといいんですけどね』
結果から言うと、フォ・ゴゥルの希望的観測は外れることになる。
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