episode 7. 新しい名前

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   グランミリアン家は三百年続く貴族の家柄で、アルフォーレ国の南東部に多くの領地を持ち、主に葡萄(ぶどう)の栽培と葡萄酒の製造で富を築いていた。  当主のアルベール・ド・グランミリアンはこの歳40歳。褐色の髪と瞳を持つ背筋の伸びた紳士で、領民からは「無口な領主様」と呼ばれ、貴族仲間からは「無口というよりは陰気な男」だと言われていた。これといった趣味もなく、領地の管理に精励する毎日を送っていた。  ヴェルデにとってより重要となるのはその奥方で、キャロリーヌという名の女主人が、グランミリアン家を切り盛りしていた。  赤味がかった褐色の巻き毛と緑の瞳を持つ夫人は、財政ゆたかな貴族の妻の地位にあることを誇りとし、なにかとそれを形にしたがる女性だった。金銀の宝飾も、年代物の家具も、たっぷりのレースをあしらった絹のドレスも、彼女の日常に欠かせないアイテムだった。とりわけ彼女が執着したのは、グランミリアン家の跡取りとなる自分の息子だった。  エルマディ・ド・グランミリアン。年齢は七歳。褐色の髪と、緑の瞳を持つこの少年の存在があるために、ヴェルデは孤児院から引き取られることになった。 「あなたの名前は、今日からエルマディ・ド・グランミリアンです。人前ではそう名乗りなさい。屋敷の中ではヴィルジニーと名乗るとよいでしょう」  赤毛を美しく結い上げた夫人は、ヴェルデを迎えるなりそう告げた。  ヴェルデは目をぱちくりさせた。何を言われているのかよくわからなかった。 「食事の作法が身につくまで、食事は部屋に運ばせます。いずれ近いうちに晩餐(ばんさん)会に出席することになりますから、そのつもりで作法の習得に励みなさい」 「あの、ぼくのなまえはヴェルデです。おしょくじのれんしゅうはします」  言いたいことだけ言って(きびす)を返そうとする夫人に、ヴェルデは慌てて言った。
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