episode 8. 幸運のお守り

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 エルマディ・ド・グランミリアンは、ヴィルジニーより一歳年長の七歳。父親譲りの褐色の髪をきれいに()でつけ、母親譲りの緑色の瞳に(うれ)いを浮かべていた。めったに外に出ないため肌は青白く、体もひょろりとして、孤児院育ちのヴィルジニーのほうがまだ健康そうに見えた。  そう、エルマディは病弱な子どもだった。そのため一日の多くを自室のベッドの上え過ごしている。手には、字がたくさんならんだ本を持っていた。 「はじめまして。きみが、ぼくの弟になる子どもだね」  意外にはっきりとした口調で、エルマディは挨拶した。  それを(さえぎ)ったのは、母であるグランミリアン夫人、キャロリーヌだった。 「本来ならば、あなたのようなグランミリアン家の血を一滴も受け継がない子どもを当屋敷に招き入れるなど不本意きわまりないことです。ですが、このとおりエルマディは病弱な体です――いえ、頭脳は明晰(めいせき)ですが。グランミリアン家の名に傷をつけぬために、跡取りとしての役目を果たすものが必要なのです」  エルマディは悲し気に瞳を伏せた。 「ごしんぱいをおかけしてごめんなさい、お母さま」  キャロリーヌは慌てて息子の肩をさすった。 「いいえ、あなたが気にすることはありませんよ。あなたがなんの問題もなくこのグランミリアン家を継げるように、母は精一杯のことをいたしますからね」  そんなふたりの様子を、ヴィルジニーは黙って見ていた。  キャロリーヌはヴィルジニーに向き直った。息子に対するときと違い、その視線には温かみというものが感じられなかった。 「教会であなたを見たときには驚きました。その髪と瞳……それこそ私たちの求めていたものです。あなたが一通りの作法を身につけたら、社交の場であなたをエルマディの名で紹介いたします。こちらのエルマディに代わって、グランミリアン家の名に恥じぬ立派なふるまいをしてください」  ヴィルジニーは、ベッドに半身を起こしたエルマディの姿を見た。  顔立ちこそ違うものの、褐色の髪と瞳は、たしかに自分とよく似ている。()いて言えば、エルマディの瞳は、ヴィルジニーより青みの強い緑色だった。 (そんなふうにまわりの人をだまして、いつかばれるんじゃないだろうか)
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