episode 8. 幸運のお守り

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 秘密はいつか暴かれるもの――ヴィルジニーは孤児院でそう教わった。しかし、キャロリーヌはそんなことを気にする様子はないようだ。 「自分の役割はわかりましたね? 午後からはあなたの家庭教師がやって来ます。しっかり勉学に励んでください――エルマディ、疲れたでしょう。あなたは少し休んで、体調に問題がなければお散歩とお勉強をしましょうね」 「今日はとてもきぶんがいいので、おくれを取りもどせるようがんばります、お母さま」  そう言って母と抱きあったエルマディは、静かな視線をヴィルジニーに注いだ。  それはおだやかに()いだ草原を思わせる瞳で、ヴィルジニーに対する敵意のようなものは微塵(みじん)も感じられなかった。  しかしそれでヴィルジニーの心が(なぐさ)められるわけではなかった。 (この人たちは、たしかにぼくをひつようとしている。でも、たいせつに思ってるわけじゃない)  そのことが、空気を通してしんしんと肺の中にまで伝わってきたからである。  ヴィルジニーはいっそう孤児院が恋しくなった。こんな気持ちの時は、院長のひざに抱えてもらって、ゆっくりとおしゃべりを聞いて欲しかった。  それがもはや叶わぬ望みであることを、ヴィルジニーは理解していた。  屋敷の中にいると気づまりだったので、ヴィルジニーは庭園を散歩することにした。  庭園はたくさんの花であふれていて、濃く甘い匂いが鼻孔(びこう)をくすぐった。ヴィルジニーは小さくくしゃみをした。 「おや、風邪かね?」  生垣の中から声が聞こえて、ヴィルジニーはびっくりしてそちらを見つめた。  草花がガサガサと揺れ――現れたのは、ひとりの老人だった。腕まくりをして、手に(はさみ)を持っている。顔は白い髪と(ひげ)に覆われていて、よく見えなかった。
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