episode 9. 夏の庭

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 ヴィルジニーがもじもじしていると、「考えておいてくれればいい」とエルマディは言った。 「調子のいい日は、こうしてここで風にあたっているから。また話すきかいはあると思うよ」  あらためて真っすぐ見つめると、エルマディは線の細い色白の少年だった。夏の日差しがすべてに強いコントラストをつける中、彼の姿だけが木陰に薄ぼんやりと浮かんでいるようだ。 「……びょうき、くるしいの?」 「もうなれたよ。生まれてからずっとこんな調子だから」  エルマディはなんでもないことのように言った。  ヴィルジニーは想像してみた。病気でほとんど毎日をベッドの上で過ごさなければならないとしたら……それはあまり楽しくない想像だった。 「じゃあね、ぼくがまほうを覚えたら、エルマディのびょうきをなおしてあげるよ」  エルマディは何度か瞬きをした。そして、ふっと吐息をこぼした。 「きみは、まほう使いになりたいのかい?」 「うん。そうしたら、空をとんでこじいんにかえれるから」 「なるほど」  分別くさくエルマディは言い、「じゃあちゃんとまほうを勉強しなくちゃね」と付け足した。 「グランミリアン家のあととりたるものまほうの勉強もひつようだって、お母さまに言っておくよ。そうしたら、きっとすぐにまほうの先生を呼んでくれるよ」 「ほんとうに? まほうつかいに会えるの!?」  ヴィルジニーは勢い込んで聞いた。  エルマディはこっくり頷いた。 「きっとね。きぞくの家でまほうの勉強をするのはめずらしいことじゃないし」  魔力を操るどころか、自身を支える体力さえあやういエルマディはこれまで魔法の勉強はしてこなかった。しかし、それがグランミリアン家に必要なことだと言えば、キャロリーヌは家庭教師を手配するだろう。 「ときどきふたりで話をしよう。ぼくは、じつは兄弟ができるのがうれしかったんだ」  とエルマディが言ったので、今度はヴィルジニーも力強く頷いた。 「いいよ! こじいんにはたくさん兄弟がいたから、みんなエルマディの兄弟になるよ。だいかぞくだよ」 「そっか、ありがとう」  エルマディはにっこり微笑んだ。 「カペル夫人を呼んできてくれるかな? そろそろおくすりの時間だから」  エルマディに頼まれ、ヴィルジニーは勢いよく屋敷に向かって駆け出して行った。
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