episode 10. 観察者

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episode 10. 観察者

 初めて出会った魔法使いは、薄い唇をむっつりと引き結んだ、頑固そうな初老の男性だった。夕焼けのような赤い髪を後ろに撫でつけて、手には体を支えるための短い杖を持っている。 「それで、お前さんは何を学びたいんじゃ?」  ヴィルジニーは答えた。 「まほう」  赤髪の魔法使いは額を押さえ「こりゃ()き方が悪かったわい」と独り()ちた。 「言いなおそう。お前さんは、魔法を学んで何をしたいんじゃ?」  そう訊かれて、ヴィルジニーは「うー」と(うな)った。  ヴィルジニーが憧れたのは、始まりの五人の魔法使い。彼らは肉体が滅んだ今でも、神としてまたは魔法社会の基礎を築いた先駆者として、今も人々にあがめられその心の中に生き続けている。彼らのような素晴らしい魔法が使えれば、エルマディの影でしかない自分も褒めてもらえるかもしれないし、本当に悲しくなったときには元居た孤児院に帰ることもできるだろう。どこで生きるにしても、魔法の力は役立つはずだ。  そういった考えなり事情なりというものを、(つたな)い言葉でヴィルジニーは伝えた。  辛抱(しんぼう)強くそれを聞いていた赤髪の魔法使いは、「つまり」と両指を組んだ。 「自分の居場所を得たい……それがお前さんの望みじゃな?」  半分ほどしか意味は分かっていなかったが、ヴィルジニーはこっくりと頷いた。 「よろしい。人に幸福をもたらすのが魔法使いの存在意義じゃ――言い忘れたが、わしの名前はガストンじゃ。よろしくな、ヴィル坊」  赤毛の魔法使い――ガストン・C・マリクはこのとき初めて笑顔を浮かべ、ヴィルジニーと握手を交わした。
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