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『ラブラブですねぇ』
仲睦まじい子どもたちの様子を見て、フォ・ゴゥルは思わずそう口にしていた。
「うん? ラブラブというのは男女の仲に使う言葉ではなかったかな」
無名の魔法使いが真剣に尋ねてくるもので、フォ・ゴゥルも真面目に答えた。
『比喩みたいなものですよ。そのくらい仲良く見える、ということです』
「ふうん、そうか」
無名の魔法使いは言い、手元に注意を戻した。
両手に棒針をせっせと動かし、クリーム色の毛糸を編んでいく。
(なにも、真夏に編み物をすることもないだろうに)
とフォ・ゴゥルは思うのだが、編み物をしている間はおとなしいのでとても助かる、とも思っている。それにしてもなにを作っているのだろうか。
内心はおくびにも出さず、フォ・ゴゥルは言った。
『ろくでもない家に引き取られたものだと思いましたが、悪いことばかりでもありませんね』
「私は、あの女狐は嫌いだがね」
フォ・ゴゥルは、立てた耳をぴくぴくと動かした。
人間のことを「愚かだ」とか「面倒くさい」とか評するのはさんざん聞いてきたが、好き嫌いで判断したのは初めてではないだろうか。
それはよい変化なのか悪い変化なのか――フォ・ゴゥルは、考えても仕方がないと思いながら思いを馳せずにはいられない。善悪など、立場が変わればたちまちのうちに変化するものだと、知っているというのに。
(あの方にとってよいことか悪いことか――いや、人間にとって、かな)
フォ・ゴゥルは、横目で編み物をするその人を盗み見た。
美しくととのった顔に穏やかな微笑さえ浮かべて、器用に棒針を動かしている。
(この方の中に同居する、酷薄さと慈悲深さ。どちらに比重が傾くかによって、人間世界への影響も変わる)
フォ・ゴゥルもまた、冷静な視点で、無名の魔法使いと世界の関わりを観察しているのだった。
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