episode 11. 麦酒のゆうべ

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「何百年も昔から人を寄せ付けなかった森に、つい最近入れるようになったと(うわさ)を聞きましてね。これは封印された遺跡があるのではと、喜び勇んで調査に来たわけです。私、得意なんですよ。結界の綻びを見つけて道を探すの。これでも魔導士のはしくれですからね」 「……それで、こんなところで見知らぬ相手に身の上話を語って、得るものはあったのかね?」 「え!? いやぁ、長話になってすみません」  男は寝ぐせの付いた頭を()いた。 「そうよ、こんなところ、長居するもんじゃないわ。変わったお友達は、宿にご招待してお話をすればいいじゃない……でも浮気はダメよ」  妻は言い、娘の手をひいて建物の外へ出た。  夫はまた頭を掻き、「よければ、いろいろをお話を聞かせてもらいたいのですが」と言った。 「旅先で訪れた遺跡で、同好の士に合うとは、これもなにかの縁です。ぜひ夕食にご招待させてください」  勝手に同好の士に認定された挙句どうやら女性と思われているらしいが、夫の言葉に興味をひかれた。 「ほぅ。私とお前のあいだに、縁があるとな?」 「えぇ、そうに違いありません」  年齢に似合わず屈託のない笑顔を向けてくる相手に、無名の魔法使いも相好を崩した。 (まぁ、ろくでもない研究員ではなさそうだし)  無名の魔法使いは、親子三人といっしょに施設を出た。  もちろん、敷地の外に出る際に、仮留めのような簡易の封印を(ほどこ)すのは忘れなかった。
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