episode 11. 麦酒のゆうべ

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(愛ある場所に魔力は宿る、か……)  親子の様子を見ていると、なんとなく「愛」のなんたるかが想像できる気がした。同時に、それが決して自分には使いこなせない力だということも感じていた。  無名の魔法使いは、男の趣味である「旧文明の調査について」の話を、麦酒を飲みながらのんびり聞いていた。途中、妻のマーサがつまみとなる料理を持ってきてくれた。彼女は「飲みすぎて二日酔いになったら、耳元で大きな声を出してあげるから!」と忠告して室内に引っ込んでいった。リチャードは首を(すく)めてその忠告を聞き、「うちの奥さん、本当にやりますから」と諦めにも似た表情で麦酒を口に運んだ。 「……それでね、その自動車というものを、部品を集めて一から組み立ててみたいんです。妻は『そんなガラクタ、置き場所ないでしょ』って怒るんですけど、これは男のロマンというやつでしてね。あぁ、女性のあなたに言っても、やはり妻と同じことをおっしゃるんでしょうか」 「そうだな、どちらかといえば奥方の意見に賛成だ。今は魔力を動力として動く車がある。それを買えばいいではないか」 「それじゃあダメなんですよ~魔法を使わずに組み立てて、魔法を使わずに動かしてみたいんです!」  リチャードは強い口調で言った。顔も首も赤い。すでに酔っているようだ。  一方、酒に酔うということを知らない無名の魔法使いは、涼しい顔で次の麦酒を飲み干した。 「お前は魔法使いなんだろう。魔法で解決しようとは思わんのか?」  リチャードはつまみを口にしながら、「分かってない! それとこれとは別なんです~」とぼそぼそ呟いた。 「この世界に魔法が普及する以前には、魔法とは別の優れたエネルギーがあったはずなんです。各地に残る遺跡がそれを証明している……それがどういうものか、研究してみたいんだ」  子どものように熱っぽく語るリチャードに、どうしたものかと肩を(すく)める。
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