episode 12. グランミリアン家の悲哀

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 ありがとう、と彼は言い、しばらく瞳を閉じていたが、再び気力を振り絞って(まぶた)を押し開いた。 「心のこりが、あるんだ。聞いてくれるかな?」 「……なんだ」  無名の魔法使いの腕の中で、荒い呼吸を懸命にととのえつつ、エルマディは言った。 「弟がいるんだ。彼が幸せになれるよう、あなたの力を貸してほしい。やさしくて、いい子なんだ。でも血のつながりはないから、きっと両親は彼のことを気にかけてはくれないだろう。僕はもう守ってあげられないから、お願い」  その緑の瞳は、悲しみと慈しみを閉じ込めた美しい宝石のようだった。その輝きが、彼の命の最期の炎を使って灯されていることを感じたとき、無名の魔法使いははっきりと頷いていた。 「あぁ。任せておけ」  エルマディは微笑んだ。  それはすべての重荷から解放された、清々しい微笑みだった。 「ありがとう。これで安心していける……迎えに来てくれたのがあなたでよかった」  ゆっくりと瞼が下がり、緑色の瞳を覆い隠した。体がずっしりと重くなり、だんだん呼吸が弱く、小さくなっていく。 (数えきれないほど人間の死を作ってきたのに。看取るのは、初めてだ)  エルマディの心臓が最後の鼓動を打ち終わるまで、無名の魔法使いはずっと小さな体を抱いていた。やがて、魂の抜けた細く軽い体をベッドに横たえると、丁寧にシーツをかけ、その場を離れた。
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