episode 12. グランミリアン家の悲哀

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 キャロリーヌはまず、医者と看護婦を(ののし)った。 「あなたがたがついていながら……あなたがたはなんのためにここにいたのです!?」  そう言って、枕元にあった数冊の本を投げつけた。  ドアの陰に隠れてその様子を(のぞ)いているヴィルジニーを見つけたとき、その矛先(ほこさき)はヴィルジニーへと向いた。 「何故あなたがここにいるのです!?」  キャロリーヌの投げた本を()けながら、ヴィルジニーは「ごめんなさい」と謝った。 「ぼく、エルマディが心配で、様子を見に来たんです」  その言葉に、キャロリーヌの眉は限界にまで吊り上がった。 「あなたがいたところで、なんにもなりはしません。あぁ、何故あなたがここにいるのです!? エルマディはもう、もう……!」  キャロリーヌは天を仰いで叫び、医者と看護婦に両脇を支えられて部屋を出て行った。  その後ろ姿を見送ったヴィルジニーは、こわごわと中央のベッドに近付いた。  ベッドの主は、いつものように歓迎してくれなかった。腹の上で両手を組み、顔の上に白い布を乗せたまま、微動だにしない。呼吸のために上下するはずの胸が動かないのを見たとき、彼が手の届かないところへ行ってしまったことを悟った。  緑に瞳にみるみる涙が盛り上がった。こぼれおちてくるそれを両手で拭って、なんとかエルマディの姿を見ようとする。白くぼやけた視界の中で、静かに横たわるエルマディの小さな体……。  ヴィルジニーは泣きながら彼の両手を握った。生前にそうしていたように、自分の元気が伝わればいいと思いながら、力をこめて握り締めた。まだほんのりと温かさを残す体は、それでも冷めていくティーポットのように徐々に温かみが失われていった。  すでに役目を終えた医者の姿は部屋になく、ヴィルジニーは四年間兄として自分を可愛がってくれた人と一晩を過ごした。  翌朝。ヴィルジニーは冷たくなった兄弟からそっと手を離すと、誰かの姿を求めて屋敷の中をさまよい始めた。亡くなった人にはお葬式という最後の儀式があると知っていたから、その準備を手伝おうと思った。  使用人たちはみな忙しそうで話しかけるタイミングが掴めず、そのままぶらぶらと屋敷内を歩いていると、当主アルベールが向かい側から歩いてきた。
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