episode 13. 落葉の一本道

1/5
前へ
/70ページ
次へ

episode 13. 落葉の一本道

 心配そうなエミリーをなんとか(なだ)めすかして外に出し、ヴィルジニーはベッドに腰かけて大きく息を吐き出した。  グランミリアン夫人に好かれているとは欠片も思っていなかったが、これほどに憎まれることも予想していなかった。それほど、エルマディを失った哀しみが大きいということなのだろう……胸の奥に氷点下の隙間風が吹き込むような喪失感を理解できたからこそ、ヴィルジニーには夫人を憎悪することは難しかった。  ヴィルジニーはその日もその翌日も、一日のほとんどを部屋で過ごした。  その次の日は、赤毛の魔法使い・ガストンが訪れる日だった。  ヴィルジニーは彼を部屋に招き、椅子をすすめた。いつもと様子が違うことに気付いたのだろう、ガストンは何も言わず、黙って示された椅子に腰かけた。 「……」 「……黙っているばかりでは話が進まん。何があった」  それはそうだと思ったが、やはりヴィルジニーの口は重かった。  悲しみが言葉の出口を塞いでいた。同時に、その先に異なる別離の可能性を悟り――それはほぼ確定の未来だと思われた――ヴィルジニーはとてもみじめな気持ちになった。  ガストンは部屋の中の本を視線だけで見渡していたが、ヴィルジニーが話始めると、視線を戻して黙って話を聞いた。  ヴィルジニーは、グランミリアン家の跡取り息子が亡くなったこと、屋敷全員がショックを受けて大きな悲しみに包まれていることをときおり涙ぐみながら話した。 「僕も、悲しい……彼は、血のつながらない僕を兄弟だと言ってくれた、たったひとりの人だったんだから。それでね、ガストン。その彼がいない今、この家に、僕の居場所はどこにもないんだ」  ガストンはふんと鼻を鳴らした。 「お前さんは、居場所を得るために魔法を習いたいと言ったのではなかったか」  ヴィルジニーはしゅんと肩を落とす。 「そうなればいいと思った……でももう遅いんだ。彼を救うことができなかったし、この家の人たちにとって僕は『息子』じゃない。あくまで『エルマディの代役』に過ぎないんだから。そのうち、ここを出ていくことになると思う」  そうか、とガストンは頷き、静かに両目を伏せた。  彼は懐からペンを取り出すと、ヴィルジニーに紙を用意させて何事か書きつけた。その走り書きを、ヴィルジニーに手渡す。 「わしが時折出入りしている、隣の国の孤児院の連絡先だ。どうにも困ったときは、ここに連絡するといい。悪いようにはならんだろう」
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加