episode 13. 落葉の一本道

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 ヴィルジニーは鼻にツンと込み上げてくるものを感じた。 「ありがとう……」  もらったメモを大事にポケットにしまい、涙を拭く。席を立って、魔法の教科書を数冊持ってきた。 「これが最後の授業になるかもしれない。よろしくね」  ヴィルジニーの言葉に頷いたガストンは、これまでの総復習だということで、教科書に載っている様々な呪文を試させた。  虚空から水分を集めて水をつくる『恵みの水(プルウィア)』、魔力を光に変換して持続させる『明かりの魔法(ルミエ)』、魔力を炎に変換して操る『火付け(フレイム)』、好きなところに風を吹かせる『風よ(ウィンドゥル)』、そして四大元素の基礎魔法の中では最も難しい地の魔法、魔力を物体に変化させて砂を作り出す『砂集め(サーブル)』。  これらの基本魔法を、効果の大小はともかくとしてヴィルジニーは習得し、ガストンからお墨付きをもらった。彼は満足げに頷くと、これからも基本魔法の練習は欠かさないようにと言いつけた。 「次の段階へ進むためには、まず基礎の力を磨くことじゃ。大きな効果を得たり、持続時間を長くすることで、少しずつ自分の中の魔力が育つ。また、その魔力を操る経験が蓄積される……どれ、今日はちょいと風魔法の応用でも教えてやろるとするか」  ガストンは持ってきた本を開くとヴィルジニーに渡し、そのページに描かれている魔法を実践してみせた。  基本呪文から発動呪文までゆったりと抑揚をもって唱える。それが風を呼び起こし、狭い範囲に集中させる術式だということは理解できたが、これまでの呪文に比べて長く複雑であるため、細部はさっぱりだ。 「――風の虚玉(ウィンドゥル・バルン)」  風が一か所に集中し、その後はじけた。  ふわっと髪をなびかせる突風が吹き抜ける。 「耳元でやってはいかんぞ……威力が上がると鼓膜(こまく)が傷つく恐れがあるからな。これは風の(かたまり)で衝撃を相殺(そうさい)する魔法じゃ。大男にぶつかって吹っ飛ばされた時、地面に転ぶ前にこの魔法を使ってクッション代わりにするといい。衝撃をやわらげてくれる」  教科書を読みなおしながら、ヴィルジニーは尋ねた。 「大男とぶつからなきゃ使えない魔法なの?」 「バカもの。大きな風を集めることができるようになれば、高所からの落下にも対応できるし、逆に相手に向かって放てば吹っ飛ばすこともできる呪文じゃわい」  この日はこの呪文を徹底的に練習した。  呪文を覚えるところから始まり、どうにか風を思ったとおりの場所に集められるようになるまで、ほぼ丸一日かかった。
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