episode 13. 落葉の一本道

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 途方に暮れているところへ、控えめなノックの音が響き、サミーが姿を見せた。彼は懐から小さな布袋を取り出すとヴィルジニーに手渡した。  チャリン、と金属が触れ合う音がした。中身を察して、驚き、顔を上げる。 「持っていて困るものでもないでしょう……持ってお行きなさい。旦那様はいい顔をなさらないでしょうから、こっそりと」  それはサミーに初めて示された好意だった。ヴィルジニーはなんと言ってよいか分からず、無言でそれを受け取った。  さっきは出てこなかった涙が、一筋頬を伝った。  翌朝、陽も登りきらない頃。ヴィルジニーは、知らない使用人とともに馬車に乗った。馬車の中ではどちらも無言だった。  窓枠に(もた)れかかって外を流れる景色を眺める。この屋敷に来るときも同じように馬車に乗ったことを思い出した。あの時は、新しい家族はどんな人たちだろうとわくわくしながら馬車に揺られていた。今は、未来への期待も恐れもなにもない。  馬車の振動も外から流れ込む風も、少年の体には届いていたが心には響かなかった。まるで時間が止まったかのようだ。 (新しい孤児院は、ガストンが言っていたところだろうか。違うところだったら……連絡を取ってくれるかな。それとも、僕の話なんて聞いてくれないかな)  少年はひどく疲れていた。たくさん本を読んだ後でも、集中して魔法の練習をした後でも、こんなに疲れたことはない。 (魔法が僕の力になると、ガストンは言った。でも本当に、僕の魔法を必要とする人がいるんだろうか)  ひょっとしたらこの世の誰一人、自分の力を必要としないかもしれない。  その想像に慄然(りつぜん)とし、少年は首を振った。けれど思考は頭を離れなかった。  誰からも必要とされない人生に、意味などあるのだろうか?    突然、馬車が止まった。  何事かと、同乗していた使用人は居眠りから覚めて馬車を降りた。しばらくして、彼が外から少年を呼ばわる声が聞こえる。
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