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少年は唇を曲げた。今さら自分にどんな用があるというのだ。
面倒くさい気持ちを隠そうとせず、少年は扉を開け、馬車を降りた。
すると、入れ替わるように使用人が馬車に乗り、馬車はそのまま発車した。少年を置き去りにして。
少年は周囲を見渡した。そこは森の入り口で、建物などひとつも見当たらない。曲がりくねった一本道と、紅葉に染まった木々。ただそれだけだ。
(なんだ。次の孤児院まで、連れて行ってもくれないのか)
妙に冷めた気持ちで、少年は現実を見つめていた。
遠ざかっていく馬車の後姿を、追いかけようとは思わなかった。ここで捨てられるのが自分の運命なのだろうと、あきらめの境地で蹄の音を見送る。
その馬車が丘を越えて見えなくなるまでそうしていたが、冷たくなり始めた風に肌を撫でられ、首をすくめながら体の向きを変えた。
その時、初めて気が付いた。
先ほどまでは誰もいなかった場所に、ひとりの人間が立っていることに。
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