episode 2. 魔法使いの日課

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 無名の魔法使いが育児書を愛読するようになってから一年が過ぎたころ。  愉快でないニュースが飛び込んできた。 「戦争の準備? あの国がか」  無名の魔法使いが眉をひそめたのは、「またか……」とうんざいるす思いがあったことと、その国が、赤子を預けた孤児院を管轄する国であったからだ。 「大きな自然災害もなく、土地は肥え、人間たちは豊かに暮らしている。それなのに、何故戦争などせねばならぬ?」  フォ・ゴゥルは、その問いに対する答えをもたなかった。人間の、特に国家というものに寄生する人間の考えは、フォ・ゴゥルにはいまひとつ理解のできないものだった。  それは、無名の魔法使いも同様なのだろう。その人は、形のよい唇に指をあてしばらく考え込んでいたが、やがてゆるゆると首を振った。 「なんにせよ、戦争を起こす気ならやめさせねばならんな。原因は?」 『あの国の近くにパメラ・シージェンスの墓所があります。本来は隣の自治領が管轄していた土地ですが、どうやら近年になって、アルフォーレ国が所有権を主張し始めたようです』  アルフォーレ国というのが、今回戦争を起こそうとしている、無名の魔法使いが赤子を預けた孤児院のある国である。
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