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しまった、これじゃ降りられない!
高二の秋、ちょうど高校生活の折り返し地点。改めて気合を入れ直し、爽やかに過ごしたい朝。
しかし現実は、遅延した関係でいつもより数段混み合った電車。高校のある駅にもうすぐ着くのに、電車の奥側に押されてしまった。
沢山の人でもみくちゃにされながら、ああ、もう、と心の中で嘆く。 嫌いだ、朝の電車は。
プシュー、とドアが開く。
「すいません、降りまーす!」
そう言って、頑張って前に進もうとするが行けない。降りる人は全然いないくせに乗る人は多くて、また押し返されてしまう。
間も無くドアが閉まりまーす、と遠くでぼんやり聞こえた。
こんなんじゃ、あと半分の高校生活も案じられる。もう無理だなこれは。
そう思ったとき、ぐいっと力強く腕を引っ張られた。
「え、ちょ、わあ!」
「いいから進んで!ドア閉まる!」
ドタドタ。 …プシュー、バタン。
転げ落ちるような勢いで、電車から出られた。それとほぼ同時に電車のドアが閉まる。
はっとして前を見ると、制服姿の男子がやれやれという顔でこちらを見ていた。背は私よりちょっとだけ高い。一個下か、同い年だろう。多分。
「あの、ありがとうございます!」
「どーも。…同じ駅で乗ったのに、どんどん後ろに行くあんたが哀れで」
同じ最寄駅だったのか。意外と口が悪いぞ。
「あんた、この駅ってことは××女子高?」
「そ、そうです!……あ」
そう、この駅の近くには女子校しかない。 ということは。
「わざわざ、ここで降りてくれたんですか?」
男子高校生は、つんとそっぽを向いた。
「…言ったでしょ?哀れに見えたって」
そう言うと、ほら行った行ったと手をひらひらさせて急かしてきた。
本当にありがとうございます、助かりましたと頭を下げて改札口へ向かう。
ここで終わっちゃいけない。突然、そう感じた。
ちょっと進んだところで反射的に振り返り、声を張り上げる。
「あの!…いつも、何分発の電車、乗ってますか?」
男子高校生は少し驚いた表情でこちらを見たが、「7時22分発!」と同じく声を張り上げて返してきた。 両方の手で「2」の数字を作っている。ダブルピースだ。
朝の電車も、悪いことばかりじゃないみたいだ。
明日は絶対、22分発の電車に乗るぞ。そう決意して、改札口へ向かって走った。
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