第14話 予期した裏切り

2/3
前へ
/169ページ
次へ
20時。 昨日要望した食料はまだ送られてこない。もう皆の空腹は限界に達しようとしていた。猪肉を水に浸けて3時間ほど経過した。少しは血が抜けただろうか?裕二が猪肉を入れた鍋の水を見てみると、透明だった水は真っ赤に染まっていた。少なからず血が抜けているようだ。裕二はとりあえずその肉を焼いてみた。酒と塩胡椒で味付けをし、少しでも臭みを誤魔化す為、焼肉だれをかけて濃い目の味付けにした。幸い調味料だけはまだまだ豊富にある。少し焦げた焼肉だれの香りがキッチンに充満し、食欲を一層掻き立てる。 「とりあえず、焼いてみたので食べてみましょう。」 裕二は大皿に大量の肉を盛ってきた。料理名等ない。肉、そのものであった。が、焼けた肉とタレがマッチした香りは誰もが唾を飲んだ。皆おもむろに小皿に取り分ける。裕二も食べてみた。かなり歯ごたえがあり硬い。やや臭みも有り、所々取り除き損じた体毛の様な物もあったが、空腹を満たす為なら大して気にならなかった。さすがに女性陣は気になっている様だが、それでも空腹には勝てない。皆むさぼるように食べた。 食事中、ポーン、ポーン、ポーンという音とピーッ、ピーッ、ピーッという音が同時に鳴った。久しぶりに無機質なアナウンスが流れる。 『デイリーギフトを贈ります。なお、昨日要望頂いた食料は審査の結果不可となりました。よって無効とさせて頂きます。同一の要望が二回不可となりました。ペナルティとして今日の要望は受諾致しかねます。ご了承下さいませ。』 「マジか・・・。ペナルティって何だよ。聞いてないぞ・・・。」 裕二がうなだれる。待望の食料は今回も認められなかった。それどころか、ペナルティとして今日の要望は出来ない。裕二は絶望の表情でデイリーギフトを取り出した。今日はノコギリだった。いよいよ使い道が無い。せめて猪を解体する前ならまだ骨切りの道具として使えそうだったが。 「参ったな。今回も食料は不可か。おい、裕二、今日捌いた猪肉はまだ残ってるのか?」 多田が裕二に問いかける。 「はい、まだ冷蔵庫に保存しています。火を通せばいつでも食べられる様にはしています。この肉だけで、いつまでもつかはわかりませんが・・・。」 「そうか。今日はご苦労だったな。」 「はい、慣れない作業でかなり疲れましたが。みんなの分の食料のストックが少しでも出来て良かったです。」 裕二が苦笑いをする。 「残念だが・・・それは違う。」 「?違う?違うって、何が違うんですか??」 多田の発言の意味が理解出来ない裕二が聞き返す。 「残りの肉は、みんなの分ではない。俺の、俺だけの分だ。」 多田の目が鋭く釣り上がる。 「ダメですよ。限られた貴重な食料です。みんなで均等に分けましょ・・・」 「だまれ!」 裕二の発言を途中で遮って、多田はボウガンを裕二に向ける。 「え!?冗談はやめて下さいよ、多田さん・・・。」 裕二の顔が引きつる。 「冗談なんかじゃねーよ。残りの肉は全部俺が貰う。勝手に食った奴は容赦なく殺す。お前ら、まだ気付かないのかよ?どこの誰がこんな事してるのかわからねーが、食糧なんてハナからよこす気ねーんだよ。今後、食糧がここに届けられる可能性は限りなくゼロに近い。俺は、何が何でも最後まで生き延びてここから出てやるぞ。おいデブ!聞いてたな!勝手に食ったら殺す!」 そう言うとボウガンは太一に向けられた。 「ヒィッ!」 太一が怯えて縮こまる。多田はそのまま高笑いをしながら自分の部屋へと戻って行った。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加