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「お、おい!死んじまうぞ!」
いつもクールな西山が珍しく焦る。
「あん?殺してるんだ・・・!!グウッ!」
大男が一瞬多田を絞める手を緩める。気管を思いっきり塞がれ、大男の顔が赤く染まっていく。
「テ、テメェ。」
大男は苦しそうに振り向く。振り向いた先には、大男の首に巻き付けたロープを両手で必死に絞める裕二の姿があった。全身で力を込め、これ以上ないほど強く締め付ける。
「お前が先に死ね!」
見たことも無い裕二の鬼の形相に皆が驚く。
「グッ、グウッ。」
大男がたまらず片膝をつく。多田を掴んだ手が緩む。ドサッという音と共に多田が魔の手から解放される。
裕二は更に力を込めロープを両手で縛り上げる。ギギギっとロープの軋む音がする。大男の顔がだんだんと赤から青紫に変わってきた。しばらくすると、大男は完全に床に倒れ伏した。大男が倒れたのを確認すると、裕二はふと我に返る。殺してしまった。裕二は両手に込めた力を抜く。その時!ガバッと起き上がった大男が両手で裕二の首を絞め上げる。矢が刺さったとは思えない程左手の力も強い。大男は演技をしていた。完全に意識が絶たれる前に、意識が無くなったフリをした。そして裕二が気を抜いたところでの反撃。裕二は多田と同じ様に首を絞められながら宙に浮かされる。
「そんなに死にてぇならお前から殺してやるよ。」
大男がニヤリと笑う。裕二の顔色が赤から青に、青から青紫へと変わっていく。
「や、やめて!やめてよ!死んじゃうよ!お願いだからやめてよ!」
ゆきなが大男の両腕を激しく叩く。ゆきなの目からは大粒の涙がこぼれている。
「うるせぇ!」
大男はゆきなを足で吹き飛ばす。激しく倒されたゆきなはその場で悶え苦しむ。しばらくすると裕二は、大男の両手を掴んでいた手を力なく下ろした。目は白目を剥き、口からはよだれを流し、その口からは舌がダランと垂れていた。意識を失ったまま、微塵も動かない。
「ハッハッハッハ!バカが!」
大男はそう言うと身動き一つしない裕二を抱え、大きなダストボックスのある部屋へと向かった。
「生ゴミは腐る前に捨てねぇとな!ハッハッハッハ。」
大男はそのままなんの躊躇いも無く裕二をダストボックスに捨てた。
「いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ゆきなの悲痛な叫び声が響き渡る。他のメンバーも信じ難い光景に誰もが恐怖した。
「みんな聞け!逃げるぞ!武器を持って俺の部屋へ集まれ!」
突然西山が叫ぶ。他のメンバーは意味が理解できず立ちすくむ。
「さとこ!キッチンの包丁を持って来てくれ!」
「は、はい!」
西山の指示をキッチンの近くに居たさとこが従う。
「いいから急げ!ゆきなさんも立つんだ!」
西山がへたり込むゆきなを強引に立たせる。皆理解が出来ないながらも西山に従う。幸い大男は今遠い場所にいる。今なら逃げられる。
8号室前。
西山は焦りながらもキーを探し出し部屋の扉を開ける。皆が入ったのを確認し、再び施錠する。皆の息がきれている。
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