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第17話 共通の敵
8号室。
「に、西山さん、説明してください。こ、これじゃあ逃げたと言うよりは追い詰められてますよ!」
最年長の山田が息を切らしながら質問する。
「みんな、よく聞いてくれ。」
西山が皆の呼吸が整うのを待つ。
「アイツは殺さなきゃヤバい。」
西山の言葉に皆が固唾を呑む。
「こ、殺すって・・・。」
山田がたじろぐ。西山が話を続ける。
「みんなも見ただろ?アイツは何のためらいもなく裕二を殺した。それどころか笑いながらダストボックスへ捨てたんだぞ。出来るか?普通。そんな事。異常だよアイツは。それに・・・アイツはついさっき初めてここに来たはずなのに、何であの大きなダストボックスの存在を知っているんだ?何故アイツ専用の10号室は開かれない?謎だらけだ。」
「た、確かに、アイツはイカれてる・・・。」
多田が賛同する。体はガクガクと小刻みに震えていた。
「おそらく・・・今アイツはこの扉の前か、前じゃないとしても部屋を出たすぐ近くで待ち伏せしているはずだ。幸いこの部屋には入って来れないから、作戦会議は今しか出来ない。この部屋を出た瞬間から戦場だ。みんな武器は持ってきたな。」
多田とゆきな以外のメンバーが頷く。
「俺のボウガンは矢を折られちまったからもう役に立たないと思って置いてきたぜ。チッ。武器無しか・・・。」
多田の震えが少し激しくなった様に見えた。
「包丁は持ってきたか?」
西山がさとこの方に振り向く。
「は、はい!あ、あと、ついでに裕二さんが持ってたロープも拾ってきた!」
さとこがロープを差し出す。
「よし!よく気づいた!偉いぞ!では、ゆきなさんは包丁を、多田さんはロープを持ってください。」
さとこが嬉しそうに照れ笑いをする。
「これで、9人中9人が武器を持てた。そろそろ作戦を立てるぞ。」
皆が西山に注目する。
「まずは、この部屋の扉を開けた瞬間、裁ちバサミとアイスピックを持った美奈子さんと麗華さんが出る。出来れば致命傷を負わせられる急所が良いが、流石に女にそれは難しいだろうから・・・何処でもいいから刺してくれ。相手が女なら奴も少しは油断するはず。そこを狙う。先陣を切るのが女で申し訳ないが・・・出来そうかい?」
頷くしかなかった。やるしかなかった。その他の選択肢は無いに等しい。麗華と美奈子は無言で頷く。美奈子も体が小刻みに震え始めた。
「次に、刺されて痛がっているアイツに、間髪入れず金属バットと金槌が襲う。太一君は金属バットでひたすら強打、山田さんは金槌で相手の骨を砕くイメージで。例えば頭蓋骨、すね、手の平など。」
太一と山田が息を呑む。
「相手が怯んだら、多田さん、ロープを使ってアイツの首を絞めてください。ロープの先に輪っかを作ってそれをやつのクビにかける。手元のロープを引けば輪っかが縮まり奴の首が閉まる様に仕掛けを作っておいてください。後はひたすら力任せに引きずり奴の態勢を崩させます。」
早速多田がロープの先に仕掛けを作る。
「倒れた所を再び刺します。鎌と包丁で。今度は急所を狙ってください。心臓とか、首筋とか。」
さとこが不安そうにゆきなの顔を見る。
「最後に、俺がノコギリでアイツの首を落とす。」
西山が説明を終える。
仮に上手くいったとしても、その光景を想像するだけで吐き気を催す。
「俺の役目が一番楽です。首を切り落とす頃には、死んでいるか瀕死の状態でしょうから。そもそも死んでいれば首を切り落とす必要も無いですし。そこに行き着くまでの攻撃の方が遥かに危険で大変です。異論があれば役割を交代します。どうですか?」
誰からも異論は出なかった。確かに西山の言う通り、危険度で言えば西山が一番安全だろう。だが、人間の首を切り落とすという狂気染みた行為は決して自ら進んでやりたい作業ではなかった。
「では、決定ですね。おそらくですが・・・殺す事が出来なければ殺されます。おそらく全員・・・。」
西山が悲しそうな目をする。
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