第17話 共通の敵

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「10数えたら飛び出すぞ。10・・・9・・・。」 西山のカウントダウンが始まる。皆の決意が固まる。大丈夫だと自分に言い聞かせる。 「8・・・7・・・6・・・。」 一体この扉を開けた後はどうなってしまうのか・・・。 「5・・・4・・・3・・・。」 西山が立てた作戦は本当に上手く行くのか・・・。 「2・・・1・・・。」 もう行くしか無い。皆が考える事を一旦止め、任務を遂行する事だけに集中する。 「行け!」 西山の号令と共に麗華と美奈子が飛び出す。案の定大男は扉のすぐ近くに突っ立っていた。麗華と美奈子が一斉に大男に駆け寄る。すぐ後ろには第2軍の太一と山田が既にスタンバイしている。 「ん?何だ?女。」 大男は突然自分の居る方向に走ってくる女2人に疑心を抱きながらも、とりわけ構える事もなく無防備に突っ立ってその光景を眺めている。 「ハッ!」 麗華が強く息を吐きながら大男とすれ違った瞬間、大男の脇腹に激痛が走った。麗華の渾身のアイスピックの一撃は、大男の脇腹を捉えたものの、急所は外した様だ。間一髪内臓は傷付いていない。 「グッ!」 大男は激痛に耐えながら後ろに振り返り麗華の姿を追う。 「このクソ女がぁ!」 麗華を追いかけようとした瞬間、右足に再び激痛が走る。そしてその直後に大男の横をさらりと駆け抜けて行く美奈子の姿が目に映った。 「テメェら〜!!」 大男の目が血走る。右足には裁ちバサミが見事に刺さっている。2人を追いかけようとするが右足が痛んで上手く歩けない。それどころか腰にも激しい打撲の痛みを受ける。太一が力任せに金属バットを振り続ける。かと思いきや次は脛だ。まるで内部から骨を粉砕する様な重たい衝撃を感じる。山田の金槌は的確に大男の脛の骨を捉えた。大男はさすがに堪らずひざまづく。が、ひざまづきながらも一番近くに居る山田の首を絞める。 「キッサマ〜!!!殺してやる!」 大男の目が完全にイッてしまっている。山田の顔色がどんどんと青ざめる。それを見た太一も怖気付き、バットを振る事を忘れる。 「何やってんだ!お前ら!」 頭の位置が下がったところで多田が大男の首にロープをかける。そして手元のロープを力任せに引っ張る。大男の首に掛かったロープは勢いよく締め付ける。多田は綱引きの要領で腰を床に落としながら更に大男の体制を崩す。大男が山田を手放す。山田はそのまま横に倒れ何度も咳を繰り返す。 「今だ!」 多田の号令にさとこが飛び出す。ひ弱な力で繰り出される鎌は心臓を外れ、心臓の少し下の方に浅く刺さりすぐ倒れた。おそらく肋骨に遮られたのだろう。失敗に焦りさとこが動きを止める。それを大男は見逃さなかった。大男は咄嗟に片手でさとこの右足首を掴む。逃げようにも力が強すぎてさとこの足首から手が離れない。さとこがガタガタと震え始める。 「死ね!」 それを見たゆきなが飛び出す。ゆきなは包丁で大男の首筋を狙う。が、多田の掛けたロープによって邪魔され若干傷口が浅い。それでも大男の首から血が吹き出す。鮮血がゆきなを真紅に染める。心底思い知らされる。自分が、裕二の事をどれほど大切に想っていたか。ゆきなにとって裕二は頼りになる支えでもあり、心の拠り所でもあった。ゆっくりと、静かに淡い恋心が芽生えていた。それが、よりにもよってこんな奴に潰されるなんて。 「許さない!」 ゆきなはもう一振り反対側の首筋に包丁を入れる。血が滝の様に流れる。大男は両手で首を押さえ必死で血を止めようとする。が、その手に冷たい無数のトゲの感触を感じる。 「お前の知っている事を全部教えろ。そうすればすぐに手当てをする。」 西山が大男の手の上からノコギリの刃を当てている。無論大男が全てを洗いざらい話したとしても手当てをする気など毛頭無かったが。そもそも今更素人が手当てをしたところでもう手遅れだ。 「吐け!お前の知っている秘密を全部吐け!」 西山の言葉に強みが増す。こいつが息耐えるまでもうそんなに時間がない。が、大男はただ複数の痛みに悶え苦しむだけで一向に話そうとしない。 「死んじまうぞ!質問を変える。お前はなぜあのダストボックスの存在と場所を知っていた!?」 「い、言えな・・・・・・い。」 大男が消え入りそうな声で呟く。 「手遅れになるぞ!!」 「グッ・・・言え・・・な・・・」 「もういい・・・死ね。」 西山が大男の手首ごと頭部を切り離す。「ギャッ。」という大男の最期の叫びとほぼ同時に床にボトンッと頭部が落ちる。辺りが一面血の海と化す。 惨劇が終わった。皆放心状態となる。時計は15時になろうとしていた。 突然ピーッ、ピーッ、ピーッっとサチュレーションの音がする。耳障りの音に皆が一瞬息を呑む。また悪魔の様な奴が来たのかと。サチュレーションの扉が開く。が、皆の不安に反して、 そこにあったのはスタンガンだった。アナウンスは無いがデイリーギフトだろう。 「これで完全にデイリーギフトで送られて来る物の意味が判明した。最初からデイリーギフトは武器しか贈られてなかったって事だ。最初はそんな考え方が無かっただろうから、贈られて来る物は全部、意味のわからない不要物に見えた。が、少し角度を変えて見ると、全てが武器にしか見えない。ボウガンやこのスタンガンなんてもはやそれ以外には考えられない。」 西山の説明に皆が納得する。 「この大男の様な敵に使えって事ですか?それとも・・・今いるメンバー内で殺し合えって事でしょうか?」 山田が不安げに質問する。 「いや、そこまではわからない。わからないけど・・・たぶん両方の意味がある気がする・・・。」 西山の答えに皆が顔を向き合わせる。結局のところ、自分以外は誰も信用出来ないのではないかと。場は沈黙し、不穏な空気が流れ始めていた。
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