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沢山の新入生でガヤガヤとした体育館
知り合いが一人もいない
ここは、アルファ、ベータ、オメガが共同で学業に励むことが出来る、数少ない高校
「ねえねえ、君どこ中?」
「だよねー。あれはまじで面白かった」
入学式が終わり、今から各教室にいくところだ
周りでは、クラスが同じになれたと喜ぶ子達で溢れかえっている
長い渡り廊下を経て、ぱらぱらと生徒が散っていく
自分のクラスに入り、窓際一番後ろの席に座る
スマホを出して、ツイッターで知り合った、会ったことの無い子と話をする
文面から見て男だが、話していて飽きないし寧ろ楽しい
属性はなんとなく互いに話していない
高校生で同い歳という事は分かってるけど
話しているうちに先生が入って来て教卓の所に立つ
男の先生だ
「えーっと、君らの担任になった牧田晴斗です。君らと同じでこの高校に来たのは今年が初めてだから、一緒に楽しめたらなと思ってます。よろしく」
「よろしくー、はるちゃん先生」
「なんではるちゃんなんだよ。はるくんだろ」
1人の生徒のおかげで、教室の雰囲気が柔らかくなった
ほわほわと柔らかい空気だったのもつかの間
ガラッと無遠慮に開けられた扉から、目付きの鋭い生徒が入って来て目が合った
教室内があっという間に静まり、その男の子に皆が注目する
「遅刻はだめだよー」
「……さーせん」
「席はあそこね。空いてるとこ」
はるちゃん先生の声で幾らか教室の雰囲気が柔らかくなる
入って来た男の子は、今まで誰も座っていなかった俺の前の席にどかっと座った
「うーん、自己紹介したい?どうする?」
「どっちでもいいかなー」
「俺はしたい!」
「じゃあしよっか。配布物とか話す事沢山あるし、名前と何か好きな物でもいいかな。属性も一応言いたい子だけで」
「じゃあ俺からね!」
同じ列の1番前の子が自己紹介を始める
その後も1人2人と自己紹介をして、前の子の番
嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと立ち上がった
「江口華澄。好きな物は特に無い……です」
淡々と済ませてまたゆっくりと席に座った
俺自己紹介は嫌いなんだ
机に手をついて立ち上がる
「及川朔です。好きな事は寝る事。よろしくお願いします」
属性は言う必要無いと思ったから言わなかった
自己紹介も後半に差し掛かった所で、隣の女の子から話しかけられた
「ねえねえ、及川…君だっけ?」
「なに?」
「そのストラップ!」
「…ああ、これ?これがどうかした?」
「Honeysのだよね?好きなの?」
おお、知ってる人がいるとは思わなかった
横の女の子が目を輝かせて俺を見る
「そうだよ。中1の時から好きなんだ」
「やっぱりHoneysかー!私も大好きなの!」
Honeysはバンド名
アルファのギター、ベータのベース、同じくベータのドラムと、オメガのボーカルで編成されたグループ
属性関係無くバンドを組んでて、しかも歌がかっこいいし綺麗
属性が嫌になっていた時期に出会ったバンド
あの頃は知名度がそれ程高くなくて、どうして有名にならないのか不思議で仕方無かった
テレビに出る事は無くて、いつもパソコンで動画を見るだけだった
初めてライブをすると聞いて、父さんに頼んで連れて行ってもらった
画面越しと生で見るのはやっぱり全然違った
ライブ後の握手の際に、少しだけ話が出来た
――今日は来てくれてありがと。楽しかった?
――凄く楽しかったです!
――なら嬉しいな。僕と握手もしてくれるし
――?どうしてですか?
――おいこらバカ。困らせんな
――痛いなあ。バカはどっちだよ
――どっちもバカなのは変わりないよね
――はあ!?
――喧嘩するなよ。余計困ってる
――まあこの子で1番最後だし、ちょっと話すくらい良いじゃん
――へえへえ。お好きにどーぞ
――いえーい
――どうして俺らのライブ来てくれたの?
――Honeysが好きだからです
――あは。面と向かって言われたらやっぱ嬉しいな
――俺、ちょっと属性が嫌になってて。皆さんが一緒に楽しそうなのが羨ましいし、見てて楽しいんです
――まあそういう時期は誰でもあるよね。俺もそうだったよ
――いや待て、初耳だぞ
――言ってないからね。後ろでお父さん待ってるし、そろそろ行かないと。あ、そうだ
――どうした?
――はいこれ。これからも好きでいてねって事で
――…良いんですか?
――こいつが良いって言ってんだ。持ってけ持ってけ
――他の子達には秘密だからね
――有難うございます。じゃあまた
――またね
その時に貰ったのがこのストラップ
離したくないからスマホにつけてる
「連絡先交換しとこ!ていうか友達よろしく」
「ああ。よろしく」
「一応名前言っとくね。笹乃万莉。及川朔君」
「笹乃。よろしく」
「こらそこー。早々にイチャつくなよー」
「えーっ、イチャついて無いですって!」
「青春良いなあ」
「はるちゃん先生そういえば属性何ー?」
自己紹介は全員終わったみたいだ
はるちゃん先生がプリントを配ろうとしている
誰かが属性を聞いて、皆が少しざわつく
「なんだと思うー?」
「ベータ?」
「残念」
「アルファ?」
「正解。アルファです」
へえーっ!意外!と声があちこちであがる
「意外ってなんだこら。番もいるんだからな」
「えーっ!誰?誰?」
「ふふ、内緒」
「はるちゃん先生顔緩みすぎー」
楽しいクラスだ
このクラスで良かった
「はるちゃん先生アルファなんだね。意外」
「人は見かけによらないからな」
「及川君もアルファだったりする?」
「いや、俺はベータ。笹乃は?」
「そうなんだ。私はアルファだよ。意外でしょ」
ああ、と同意すると、そこは否定してよ、と笑って返された
前からプリントが回ってきたから受け取る
受け取った後、あからさまに溜息をつかれた
取るのが遅かったのだろうか
申し訳ない
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